「趣」とは
「趣(おもむき)」は、多義語で以下のような意味があります。
また、「趣」を「シュ」と読む場合には、仏教用語としての意味もあります。仏教では、生前の行為によって死後に行く六種の境遇(六趣)を指します。六趣のうち、地獄・餓鬼・畜生を「三悪趣」、修羅・人・天を「三善趣」と呼んでいます
5の意味は、古典の用法ですから現代で使うことはまずありません。以下では、「趣」の字義を見た後、使い方を1から4の意味別にご紹介します。
「趣」の字義
「趣」は、音読み「シュ」、訓読み「おもむき」と読みます。漢字の構成(走+取)から、走って取りに行くという様子を表しています。ここから、ある場所や状態に向かうという意味になり、転じて、心が向かうところ(おもむくところ)という意味になりました。
例えば、「趣味」は、そのものの味わいやおもしろみに心が向かう(関心を持つ。夢中になる)といったものですし、「趣向」は、心が向いて行く方向に味わいやおもしろみを工夫するということですから、「趣」の成り立ちに沿った熟語と言えるでしょう。
「趣」の使い方
1の意味「風情・あじわい・おもしろみ」
1の意味は、風景などに風情や味わい、あるいは、おもしろみなどを感じてそれを表現します。季節の移り変わりや天候の変化でみられる風景や家屋の佇まいなどによく使われます。
【例文】
- 雨で濡れた紫陽花の葉に雨蛙がいる様子に梅雨の趣を感じる。
- 新緑のさわやかな緑に劣らず、秋も深まった頃の雑木林の色彩も趣があってなかなかいいものだ。
- この茶室から見る冬の庭には夏とは違う趣がある。
2の意味「様子・ありさま・気配・気分」
2の意味では、例えば、街並みの様子や雰囲気などを表すときに使いますが、その様子自体の描写だけでなく、そこから感じる気分などにも「趣」を使います。
【例文】
- 初めてヨーロッパを旅して、日本の街並みとは随分と趣が異なり、初めのうちは戸惑った。
- 近頃、冬の趣が深まってきて、朝、寝床から出るのが億劫(おっくう)になってきた。
- この街には明治初期の西洋建築物が多く残っていて、文明開化の趣を感じることができる。
3の意味「内容・趣旨」
3の意味では、相手が伝えようとしている話の内容や趣旨のことを表して使います。しかし、最近、この意味で使うことはあまりありません。
【例文】
4の意味「事情」
4の意味では、人から知らされた内容や知識について使います。この意味の使い方も、文芸作品や手紙などではありますが、最近は見聞きすることが少なくなっています。
【例文】
- 近頃、大病された趣、ご子息から聞いておりますが、お加減は如何ですか。
- うちの支社長は、単身赴任でなにかと不自由な趣の部下を月に2、3度は家に招いて夕食を振舞ってくれる。
「趣」の類語
「風趣」
「風趣(ふうしゅ)」の「風」には、「風格」や「風雅」のように、その姿や様子、人柄などから漂うゆかしいような感じで心を動かすものといった意味があるところから、「風趣」は、そのもの自体が備えているおもむきやあじわいを意味し、1と2の類語と言えます。
【例文】
「趣向」
「趣」の類語としての「趣向(しゅこう)」には、①おもむき、趣旨、②新鮮さやおもしろみ、味わいなどを出すための工夫という意味があります。どちらも「趣」に向かって行くと捉えるとわかりやすいでしょう。
【例文】
- 今年の展示会は、例年とは異なった趣向で来場者の受けが良かった。
- 彼女の家では、毎年、趣向を凝らした料理や飾りつけでクリスマスを楽しんでいる。