「懇ろ」とは
「懇ろ(ねんごろ)」と聞くと、男女関係のことを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、名詞と形容動詞として、それぞれ以下のような意味があります。
【名詞】
- 親しい間柄になること。
- 男女が親密な関係になること。
- 男同士の性的関係のこと。
【形容動詞】
- 心がこもって親切なさま。
- 親密なさま(特に、男女関係)
「懇」の字義
「懇」は、音読み「コン」、訓読み「ねんご-ろ」と読み、 まごころをつくす、うちとける、したしくするといった意味があります。「懇親会」とか「懇願する」という言葉でおなじみですが、用例自体はそれほど多くないこともあり、書ける人は少ないかもしれません。
「懇」の「豸」は、「豕(いのしし)」を表します。人の目の強調である「艮(とどまる)」と組み合わせた「貇」は、猪が畑に出てきて、とどまって農作物を掘り起こすさまから、掘り起こすことを意味し、「心」がついて、心を掘り起こすイメージから、「懇」の意味が出ています。
掘り起こすという意味では、「貇」に「土」を付けた「墾」が、開墾(荒れた土地を切り開いて田んぼや畑を作ること)や墾田(開墾で作られた田んぼ)などの熟語で使われています。
「懇ろ」の使い方
「懇ろ」は、上記のように、人間同士の仲のいい関係や親密な関係、あるいは、親切で真心のこもった様子を表す時に使います。
【例文】
- 母の13回忌で菩提寺の住職の懇ろな法話がとてもよかった。
- 初めて彼の家に行った時、緊張したけど、両親から懇ろに迎えられてうれしかった。
- あいつとは学生時代からの懇ろな中で、今でも親交が続いている。
- Aさんと課長が懇ろだという噂が社内に広まっている。
「懇ろ」の語源
「懇ろ」の語源は、上代(主に奈良時代)に使われていた「ねもころ」が「ねむころ→ねんごろ」と変化したもので万葉集などにその例が見られます。「ねもころ」は、心をこめて思う、つぶさにものを見るさまのことです。
語源には、「ね(根)」+「もころ(如し)」という説と、「ね(根)」+「も(助詞)」+「ころ(凝)」という二説があります。
いずれの説でも「根が絡み合う如く密に」という意味ですが、「ねんごろ」は「密」に重点が置かれていることから、こり固まるという意味の「凝」が含まれる後者の説が有力なようです。
「懇」の書き順
「懇」は、左上の「豸」→右上の「艮」→下の「心」の順で書きますが、それぞれの部分の書き方は以下の通りです。
- 「豸」は、上から「ノ」→「ツ」と書き、次に、弓状の縦棒を書いて、「ノ」を上から二つ続けて書きます。
- 「艮」は、まず、左上の角から右へ直線を引き、右角で下に下ろします。次に横棒を二つ引き、左上の角から下に直線を引いて下端で右上に撥ねます。次に右から左斜め下に小さな「ノ」を書き、最後に右下に向けて斜めの線を引きます。
- 最後に「心」を、左から順番に点や足を書いて完成です。
「懇ろ」の類語
「懇切」
「懇切(こんせつ)」は、きめ細やかな配慮があって親切なこと、心から願うことです。前者の意味が、「懇ろ」の「心がこもって親切なさま」という意味の類語です。
【例文】
- 新しく買った電子レンジの取扱説明書は、懇切丁寧な内容でよく理解できた。
- 確定申告で、税務署の職員が手続きを懇切に説明してくれた。
「昵懇」
「昵懇(じっこん)」は、心安く打ち解けていること、慣れ親しんで遠慮がないことです。「昵懇の間柄」とか「昵懇の仲」という使い方をします。
「昵」の「尼」は、「尸(ひと)と比(ならぶ)」の略された形で、肩を並べて親しむ人、または、親しみやすい女性を表します。「昵」は、日(暖かく、親しみやすい太陽)と「尼」が一つになって、そばに近づいて親しむことを意味しています。
【例文】
- A社の社長とB社の社長は大学の同窓で、昵懇の間柄だそうだ。
- 彼とは昔から昵懇にしていて、なんでも相談できる友人です。
「睦まじい」
「睦まじい(むつまじい)」は、打ち解けていて親密なこと、深い愛情で結ばれた人間関係のことです。親密な男女関係を表現する時によく使われる言葉で、「懇ろ」の「親密」という意味の類語です。
【例文】
- おしどり夫婦として知られているA夫妻は、いつ見ても仲睦まじい様子でうらやましい限りだ。
- 夫と睦まじく暮らしたのは新婚3年目ぐらいまででした。