「耽美」とは
「耽美(たんび)」とは、この世のあらゆるものの中で、美こそ最上が価値あるものとして、美を求め、美に耽り、美を追求することです。「耽」は、ふける(おぼれる、没頭する)、夢中になって深入りするという意味で、「美」にふけり、深入りすることから「耽美」と言います。
では、最上の価値がある「美」とは一体何なのでしょうか。次項では、「美」について、詳しく見ていきます。
「美」とは
「美」は、古来から「真・善・美」の一つとして、人間が憧れて追求するもっとも重要な価値と位置付けられてきました。そして「美」とは、主として視覚を介して得ることができる喜びや快楽、幸福感などの感覚的な体験のことです。
具体的には、美女、美形、美しい色などのように姿、形、色などの見た目が美しいことを指します。また、美味のように味覚を介するものや、精神美(美しい心、穢れのない心のように内面の美しさ)と言われる「美」もあります。
なお、中国最古の字書『説文解字』によると、「美」という漢字は「羊」と「大」でなり、神に供える羊を表しています。神に供える羊には、大きさ・美しさ・完全さが求められたことから、「美」の漢字が生まれ、美しいという意味を持つようになったとされています。
「耽美」の使い方
上記のような「美」にふけり、唯一のものとして追及する「耽美」は、主に芸術や文学の世界で重視され、「耽美派」や「耽美主義」といった言葉を生み出しています。
【例文】
「耽美」の同義語
「唯美」
「唯美(ゆいび)」の「唯」は、ただそれだけという意味で、「美」ただそれだけがすべてで最高のものということから、美を最上の価値あるものとして、美を求め、美を追求することです。したがって、「耽美」と同義語で、「耽美主義=唯美主義」として扱われています。
【例文】
「耽美」の類語
「傾倒」
「耽美」の類語としての「傾倒(けいとう)」は、ある物事に強く心を惹かれて夢中になること、特定の人を心から尊敬して慕ったり憧れたりすることです。「耽美」のように対象が「美」ではありませんが、人や物に夢中になり、深入りする点では同じです。
【例文】
- 息子は、ライブで感化されてロックに傾倒し、受験勉強が手につかないようだ。
- 私の妻はアロマに傾倒して、アロマテラピーインストラクターの資格を取得した。
「審美」
「審美(しんび)」は、美しいものとそうでないものを見極めること、美の本質などを究明することです。美を見極めたり、本質を究明することは、追求に近いことから、「耽美」の類語と言ってもいいのではないでしょうか。美を的確に見分ける能力のことを「審美眼」と言います。
【例文】
- 有名なファッションデザイナーが、審美眼で定評のある○○芸術大学の准教授とコラボレーションして作品を発表した。
- 現在、「美学」と呼ばれている学問は、西洋から入ってきた時、森鴎外が「審美学」と翻訳したと言われています。
「耽美主義/耽美派」とは
「耽美主義」とは、最上の価値と認める「美」を唯一の目的とする芸術上の立場や生活態度のことで、「唯美主義」あるいは「審美主義」とも呼ばれています。この「耽美主義」を推進した芸術家たちを「耽美派」と呼んでいます。
「耽美主義」は、19世紀後半のフランスとイギリスを中心に興り、フランスではシャルル・ボードレール、イギリスではアイルランド出身のオスカー・ワイルド(冒頭写真の人物)に代表されます。
日本では明治末期に森鴎外や上田敏が「耽美主義」を紹介し、永井荷風や谷崎潤一郎が「耽美派」の代表として有名です。