「没頭する」とは?
「没頭する」は、(ぼっとう・する)と読みます。「没」は多義的な漢字で、沈む・もぐる(例:水没)、地中にうずまる(例:埋没)、失う(例:没我)、終わる、死ぬ(例:没年)などさまざまな意味をもちます。
「没頭」における「没」の意味は、うちこむ、はまりこむ、が該当しますが、ほかの意味とも共通するのは、見えなくなる、というキーワードです。
つまり、「没頭」は、あることに我を忘れるほどに熱中すること、あることに頭をつっこみ(夢中になり)、のめりこんで他を顧みなくなるような状況や精神状態を意味する言葉です。
「没頭する」の使い方
「没頭する」は、頭を没する、と書くだけあって、ちょっとやそっと集中したくらいでは使えないほどインパクトのある言葉です。現在進行形で「いま、仕事に没頭しているところだよ」と他人に言えるなら、逆に没頭していない証拠ともいえましょう。
「没頭」は、いまの自分を客観的に分析などできないほどに、なにかにのめりこんでいる状態です。まわりから見て「彼は、仕事に没頭しているな」、もしくは自分の過去を振り返り「あの頃は仕事に没頭していたな」ならば自然な使い方です。
「没頭する」を使うさいは、その功罪も意識しましょう。「没頭」することで素晴らしい成果をあげることもある反面、我を忘れ、客観的判断ができないこともあるのです。例えば、手術担当の外科医には、「没頭」というより「一意専心」の手術をお願いしたいところです。
「没頭する」の言い回し
「没頭する」の功罪をよくあらわす二つの言い回しをご紹介しましょう。
- 没頭力:アナウンサーの吉田尚記氏による造語で、徐々に一般化しつつあります。「没頭」する力を身につけ、「没頭」をコントロールしてゆくことで、さまざまな能力を最大限に発揮してゆける、という説に基づく言葉です。
- 没頭したあまり・没頭したあげく・没頭したはてに:このような言い回しはすべて、「没頭」のネガティブな側面を表しています。我を忘れ、他者やまわりの状況も目に入らず、そのはてに大失敗をしてしまった経験を思い出す人は多いかもしれません。
「没頭する」の例文
- 鈴木画伯はひとたび絵筆をもつと絵を描くことに没頭し、声をかけても聞こえないほどだ。
- 由美子さんは深夜に読書に没頭するあまり、気がつけば朝になっていることがよくあるそうだ。
- 若いころを顧みれば、音楽に没頭したあげく受験にはのきなみ失敗したが、後悔はない。
「没頭する」の英語表現
「没頭」を意味する英語は、名詞で代表的なものとしては以下のような単語が挙げられます。
- absorption
- immersion
- prepossession
「没頭する」という動詞であれば、absorbが代表的です。イディオムのかたちでも「没頭する」を表す方法がありますので、以下に代表的な二例をご紹介します。
be absorbed in~
be absorbed in~は、(何かに)「没頭する」や「夢中にさせる」の意味です。名詞のabsorptionが、動詞となる場合、absorbと、pではなくbが用いられていることに注意しましょう。
absorbは、夢中にさせる、心を奪う、という他動詞ですので、受け身形で用います。
【例文】:He was absorbed in PC game.(訳文:彼はパソコンゲームに没頭していた)
lose oneself in~
lose oneself in~は、日本語の「没頭」や「忘我」と似た英語表現で、自分自身を失う、つまりは没頭と同じ意味になります。過去形で用いるのが一般的です。
【例文】:I lost myself in religion when I was young.(訳文:私は、若いころ宗教に没頭していた。)
「没頭する」の類語
「没頭する」の類語には、「没入する」「熱中する」や、「無我夢中」「一心不乱」などの四字熟語もあります。これらの言葉はみな、他のことが目に入らないくらいのめりこむという点が共通しています。
ほかに、「集中する」や「専心する」も似た言葉と言えます。しかしこれらは、なにかに強く心を注ぐ、という意味では類似していますが、我を忘れるような熱狂とは異なる冷静さを印象付ける言葉です。