「君が代」とは
日本の国歌である「君が代」。その歌詞はたった5行の和歌を起源としており、歌詞だけ見れば世界の国歌で一番短いと言われています。
国歌(国の讃美歌)は、外交儀礼上、必要不可欠なものとして、西洋に倣って明治時代に日本にも導入されました。「君が代」が正式に日本の国歌として法制化されたのは、1999年の「国旗及び国歌に関する法律」によるものです。
国歌とは?
国歌とは国を象徴する歌曲または楽曲で、おもに祝典、競技、集会などの際に演奏され、国の繁栄をうたうものが多く見受けられます。日本が開国した幕末、外交面での国歌の重要性がようやく認識されるようになりました。そこで薩摩琵琶(語りものと呼ばれる和楽の1ジャンル)の『蓬莱山』から歌詞が採られ、やがて国歌として導入に至ったのが「君が代」です。
現在では、ほとんどの国が公式に国歌を制定していますが、多くは古い民謡や既成楽曲からの転用です。世界の国歌には国威発揚を促すものが多く見られますが、中には、スペインの「国王行進曲」のように歌詞のない国歌もあります。
古今和歌集が由来の「君が代」
「君が代」の元となる和歌が詠まれたのは平安時代。905年の『古今和歌集』に「わが君は 千代に八千代に さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで」という歌があります。作者は「詠み人知らず」として記載されていました。
じつは上記の歌の作者はあまり位の高い人ではなく、文徳天皇の皇子惟喬(これたか)親王に仕えていた木地師(きじし、ろくろを用いて椀や盆等の木工品を加工、製造する職人)でした。そのため「詠み人知らず」」という扱いになったのですが、のちに「さざれ石」にちなみ、藤原朝臣石位左衛門という名を朝廷から賜っています。
『古今和歌集』で貴族たちの慶賀の歌として紹介された歌は、その後に編纂された『新撰和歌集』(紀貫之撰)や『和漢朗詠集』にも転載されており、名歌であったことが窺えます。
つまり「君が代」は、貴族の祝賀の歌としての代表和歌のひとつだったわけです。
「君が代」の歌詞の意味は?
『わが君は 千代に八千代に さざれ石の いわおとなりて 苔のむすまで』(古今和歌集)
『君が代は 千代に八千代に さざれ石の いわおとなりて 苔のむすまで』(日本国歌「君が代」)
「君が代」の歌詞を上に示していますが、フレーズ毎にその意味を見ていきましょう。
「君が代」
古語辞典によると、「君」は、天皇・帝・主人・お方(貴人を敬っていう語)・あなた(人称代名詞、親愛の意を表す)を指しています。
「代(よ)」は、一生・生涯・前世・現世・来性、時代・時分・御代・治世・男女の仲のことを言います。
詠み人が「わが君は」と詠んだ背景を考慮すると、「君が代」は、①あなたの生涯 ②我が君の時代・治世を表しているといってよいでしょう。
千代に八千代に
「千代」の意味は「非常に長い年月・永遠」で、八千代は「八千年・極めて長い年月・永遠」を意味しています。
「千代に八千代に」は、いつまでも末永く永遠にという意味が込められています。
さざれ石の巌となりて
「さざれ」は漢字で「細」と書き、「小さな・細かい・わずかな」という意味を持ちます。よって「君が代」の「さざれ石」とは文字通り「小さな石」を指すのですが、小石が長い年月をかけて大きな巌となった「石灰質角礫岩」のことを「さざれ石」と呼ぶこともあります。
岐阜県揖斐川町春日にある「さざれ石」は、上述の「藤原朝臣石位左衛門」が詠んだ石とされ、「君が代」のルーツとして天然記念物になっています。
苔のむすまで
苔のむすまでの「むす」を漢字で表すと「生す」と表記します。これも長い年月を意味します。
君が代の意味
以上から、最初の詠み人が読んだ和歌は、「あなたの時世が、小さな石が長い年月を経て堅い絆で結ばれて大きな岩となるように、苔がつくまで、末永く続きますように」という意味になります。
最後に、日本国歌「君が代」の制定時に、日本研究家のバジル・ホール・チェンバレンが英訳した歌詞をご紹介します。
A thousand years of happy life be thine!
Live on, my Lord, till what are pebbles now,
By age united, to great rocks shall grow,
Whose venerable sides the moss doth line.
汝(なんじ)の治世が幸せな数千年であるように
われらが主よ、治めつづけたまえ、今は小石であるものが
時代を経て、あつまりて大いなる岩となり
神さびたその側面に苔が生(は)える日まで
以上から、明治時代以降、国歌として昭和時代の法制化を経て、「君が代」は、「日本の象徴である天皇陛下のもとで、この国の平和な治世がいつまでも続きますように」という意味になりました。