「傾倒」とは
「傾倒(けいとう)」の意味は次の通りです。
- 傾いて倒れること、傾けて倒すこと。
- 何かに強く心を惹かれて夢中になったり、誰かを心から尊敬して慕ったり憧れたりすること。
- (器などを)逆さまにして中身を全部出すこと。酒を酌み尽くすこと。
多くの場合、「傾倒」は2の意味で用いられます。まれに3の意味で使うこともありますが、現代において、1の意味ではほとんど使わないようです。
「傾倒」の使い方
「何かに夢中になる・誰かに憧れる」
前項の2の「何かに夢中になる・誰かに憧れる」といった意味の「傾倒」は、「○○に傾倒する」のかたちで、夢中になる、憧れる対象に対して広く用いられます。
【例文】
- 江戸時代末期、長州藩や薩摩藩の武士たちは尊王攘夷(そんのうじょうい)思想に傾倒し、やがて討幕思想をも掲げるようになった。
- 推理小説作家 江戸川乱歩はエドガー・アラン・ポーに傾倒していたので、ペンネームもポーの名前に似せたそうだ。
- 子供の頃からクラシックに親しんできたA君は、高校に入ってからロックに傾倒し始めた。
「中身を全部出す」
3の「中身を全部出す」という意味の「傾倒」は、「(力などを)出し尽くす」という意味合いで使われますが、使う場面は多くはありません。
【例文】
- この絵は、作者が全精力を傾倒して作り上げたものだと一目で分かった。
- 彼らは努力を傾倒して被災地の救助活動にあたった。
「傾倒」の類語
ここでは「傾倒」の意味のうち、2の「何かに夢中になる・誰かに憧れる」に類する言葉を紹介します。
「心酔」
「心酔(しんすい)」は、特定の物事に心を奪われて夢中になること、特定の人を尊敬して慕うことです。「傾倒」の2の意味とほぼ同じと言えますね。
「酔」という漢字からパッと思い浮かぶのは、酒に酔う・船に酔うといった生理的な現象でしょう。しかし、「酔」には、酔っぱらって正気でない・意識がはっきりしないという様子から、物事に夢中になる・うつつをぬかす(何かに心を奪われること)という意味もあります。
【例文】
- モーツァルトに心酔している彼女は、一日中、彼の曲を弾いている。
- 彼は、ゼミで教授の話を聞いているうちにすっかり心酔してしまった。
「崇拝」
「崇拝(すうはい)」とは、心から尊敬し、崇める(あがめる)ことです。特に、宗教においては信仰の対象となる神仏を崇めることを言います。
「崇拝」は宗教の話題だけで使うものと思っている人もいるかもしれませんが、例えば、アイドルタレントやカリスマ芸人などに対しても用いられます。また、「太陽崇拝」や「外国崇拝」といった複合語としても使われる言葉です。
【例文】
- 今年のミスキャンパスに選ばれた彼女の周りには、彼女を崇拝する男子学生がたくさんいる。
- 金銭崇拝一辺倒の今の世の中では、心の問題が取り残されている。
「賛美/讃美」
「賛美/讃美(さんび)」は、ほめたたえることという意味です。自然などの物の有り様や、人の業績・徳の高い人などに対して用いられます。賛美歌とは、キリスト教において神・救世主を賛美する歌のことです。
【例文】
- 富士山の孤高の美しさを賛美する声が、外国からのツアー客の間から聞こえてきた。
- 災害地で支援活動を続けるボランティアの人たちに、各方面から賛美の声が上がっていた。
「憧憬」
「憧憬(しょうけい/どうけい)」は、人や物事にあこがれて強く心を惹きつけられることです。「憧憬」には、心の動きにおいて「傾倒」や「心酔」ほどの強さはありません。しかし、これらよりもややロマンティックに憧れ(あこがれ)を表現できる言葉ではないでしょうか。
【例文】
- パリは、芸術家を目指す人々の憧憬の町として有名だ。
- 子供の頃から外国の車に憧憬の念を抱いていた彼は、入社してすぐにドイツ車を買った。