「訴える」とは
「訴える(うったえる)」には、以下の意味があります。
- 物事の正当性や真偽の判断を求めて裁判所などに申し立てること。
- 物事の解決や改善のために権限や力のあるものに告げること。
- 不平や不満などを人に告げること。
- 物事の解決や自分の主張などを強硬な手段を使って実現しようとすること。
- 相手の感情や理性に対して、自分の気持ちなどを伝えること。あるいは相手の感性を刺激すること。
「訴」という漢字は、言葉を表す「言」と、斧(オノ)で叩き割るさまを表す「斥(斤+丶)」から成り立ち、そこから上の立場の者に申し出るという意味を持つようになったと言われています。
「訴える」の使い方
「訴える」は、とても幅広く使える言葉です。「訴」の成り立ちや意味を踏まえながら、それぞれの意味ごとに「訴える」の使い方と例文をご紹介します。
1の意味
上の立場の者に申し出るという意味では、裁判所や警察、行政機関などの公権力を行使することができる組織に対して訴えたり、申し立てる場合に使います。時代劇でも、奉行所に訴える場面がありますね。
1の意味での「訴える」は、国や自治体の定めた法令に基づく手続きを利用して問題を解決しようとすることです。
【例文】
- 友人に懇願されてお金を貸したのに返してくれないから、弁護士に相談して裁判所に訴えることにした。
- 高速道路であおり運転をされて危険な目にあったので、ドライブレコーダーのデータを持参して警察に訴えた。
2の意味
2の意味も、上の立場の者に申し出る部類に入ります。しかし、公権力のような強いものではなく、職場の部下が上司に訴えたり、学校の生徒が先生に訴えたりするような場面で使われます。また、病気やけがの症状を医師に訴えるという場合もあります。
【例文】
- 取引先の課長からセクハラ行為を受けたので、帰社して担当を変えてほしいと課長に訴えた。
- 最近、憂鬱な気分が続いて会社に行くことも辛かったので、カウンセラーにその辛さを訴えた。
3の意味
3の意味では、友人や同僚、身内の者など、日ごろから話を聞いてもらいやすい人に対して不平や不満を言うときに「訴える」を使います。「訴える」行為には、気分がすっきりしたり、自分に対する同意や応援、手助けを求めるような気持ちを含んでいる場合もあります。
【例文】
- 部屋でたばこを吸うことを妻から禁じられているホタル族の友人が、「なんかわびしい」と訴えていた。
- 仕事のクレームでイライラした気持ちを彼に訴えたら、すっきりした。
- 毎朝、飼い猫が、早く朝ご飯が欲しいと訴えて、ベッドに上ってきて耳元でニャーニャーと鳴く。
4の意味
強硬手段としては、「武力に訴える」とか「暴力に訴える」、あるいは「腕力に訴える」という表現がよく使われます。この意味では「訴」に含まれる斧で叩き割るという強い意味が如実に表れています。
そのほかにも「法律に訴える」という言い方もありますが、法律は適正な手段なので、本来は1の意味ですが、訴えられた相手からすると強硬な手段だと受け取る場合があります。
【例文】
- 与党が十分な質疑を尽くさないまま強行採決に訴えたと野党が激しく非難している。
- 立てこもりが長期化して、人質の安否が気遣われるため、非常手段に訴えることになった。
5の意味
意見や考えを伝えようとする時、理屈ではなく、相手の感情や感性に働きかけることがあります。そのような時にも「訴える」を使います。
【例文】
- 彼女のスピーチは聴衆の心に深く訴えるものがあった。
- 今回の感染症対策は、法律や制度だけでなく、国民の良識に訴えることによって効果があったのではないだろうか。
「訴える」の類語
「提訴」
「提訴(ていそ)」は、裁判所に訴状を提出する(訴えを提起する)ことです。スポーツの判定や運営上のトラブルを解決するために、それぞれのスポーツ連盟などの機関に解決を諮ることも提訴と言うことがあります。「訴える」の1の意味の類語です。
【例文】
「嘆願/歎願」
「嘆願/歎願(たんがん)」は、事の次第や成り行きを詳しく説明して、強く実現を願うことです。刑事裁判などで、刑を軽くすることを願ったりするときに嘆願書を提出するという形で「嘆願/歎願」が、行われることがあります。
権限を持った相手や、相手の感情などに働きかける点で、「訴える」の2や5の意味の類語と言えます。
【例文】
- 冤罪の疑いがあるとして、裁判のやり直しを嘆願する声が各地であがっている。
- 使い込みが発覚し解雇された元社員が、復職を求める嘆願書を送ってきた。
「請願」
「請願(せいがん)」は、(目上の人などに対して)自分の意見や希望が実現されるように請い願うことです。その意見や希望を国や地方公共団体に対して請い願うときは、憲法16条に規定された請願権に基づいて行います。
「請願」は、「嘆願/歎願」と似ていますが、法的根拠の有無という違いがあります。「請願」は、「訴える」の1や2の類語です。
【例文】
- 今日の会議の一つ目の議題は、請願に基づくAさんの異動の是非について検討します。
- 大規模災害の被災者の早期救済を求める嘆願書に署名した。