「名残」の意味
「名残(なごり)」には、以下のような意味があります。
- ある物事が終わった後でも、その気配や余韻が残っていること、あるいは、その気配や余韻。
- 人との別れが忍びなく、思い切れないこと、あるいは、その気持ち。
- 物事の最後。終わり。
- 故人を偲ぶよりどころとなるもの。思い出の品。忘れ形見。
- 傷病などのあとにからだに残る後遺症や傷跡。
- 連歌や連句の「名残の折」や茶の湯の「名残の茶」などの略。
1の意味が、「名残」の本来の意味で、その他の意味はそこから転じたり、派生したものです。次に、「名残」の語源をご紹介します。
「名残」の語源
「名残」の語源は、嵐が収まった後に荒波の余韻が残っていたり、波が引いた後に残る水たまりや海藻などのことを「波残り(なみのこり)」と言っていたのが略されて「なごり」となり、「余波(なごり)」という漢字が当てられ、さらに「名残」が当てられたと言われています。
このような語源から、奈良時代以前には、1の意味を表す言葉として使われるようになり、平安時代になると、2の意味でも使われるようになってきたようです。その後、3以下の意味も、1や2の意味から派生して使われるようになっています。
「名残」の使い方
1の意味「気配や余韻」
語源のところで述べたように、1の意味が「名残」本来の意味です。過ぎ去った自然現象や災害、戦争などの爪痕、新しい街に残る古い町の面影や遺構など、当時の様子を伝える気配や余韻を「名残」で表します。
【例文】
- 広島市には原爆投下の名残である原爆ドームがある。
- この公園のいたるところに見られる倒木や荒れ果てた庭園は、先日の台風の名残だ。
- 近代化された大都会の中にも、戦国時代の名残が随所に残っている。
2の意味「別れがしのびない」
人生にはいろいろな形の別れがあります。関係が深い物事との別れのしのびなさ、旅先での離れがたい風景や町、四季の移り変わりなどにも使うことができます。
【例文】
- 定年退職の日、会社の建物を見上げて、しばらく名残を惜しんだ。
- 初めての海外旅行で楽しい思い出がたくさんできたこの町に名残が尽きない。
3の意味「物事の最後」
江戸時代の浄瑠璃作者・近松門左衛門の人形浄瑠璃『曾根崎心中』に「この世の名残、夜も名残」という名文句があります。心中しようする若い男女の道行の場面を語るセリフの一部です。二人で連れ立つ最後の道行と夜を「名残」で表しています。
この語り文句のように、いよいよこれが最後というような状況で使う「名残」が、4の意味でいう「名残」です。
【例文】
- 余命宣告を受けた夫が、この世の名残にオーロラを見たいと言うので二人で行くことにした。
- 地球滅亡の日、名残の夜に君は何をすると聞いたら、SF映画の見過ぎだと、彼女に笑われた。
4の意味「故人を偲ぶ思い出の品」
物には、様々な人にまつわる思い出があります。亡くなった人の持ち物などを形見と言いますが、その中でも特に、その人を思い出すようなものを「名残」と言うことがあります。なお、「忘れ形見」といった意味は、現代では使われていないようです。
【例文】
- この部屋には、祖父の名残の品々が生前のまま大切に保管されています。
- 庭の桜の木は、桜が好きだった子供の名残です。
5の意味「後遺症や傷跡」
病気やけがをすると後遺症や傷跡が残ることがあります。そのようなに後に残ったものを「名残」と表現します。
【例文】
- 彼の太ももにある傷跡は、10代の頃のバイク事故の名残だそうだ。
- 現代の外科手術は内視鏡などを使って小さな手術痕しか残らないが、昔は手術の名残で大きな手術痕が残ったそうだ。
6の意味「名残の折・名残の茶」
「名残の折」は、連歌や俳諧連句を懐紙に書く時の最後の折のことです。百韻形式(100句を連ねて一巻きとする)では四枚目の折、歌仙形式(50句を連ねて一巻きとする)では二枚目の折に当たります。
「名残の茶」は、残り少なくなった前年の古茶の名残を惜しんで、陰暦8月末日から9月にかけて催す茶会のことです。現在は、風炉から炉に移る10月中旬より下旬にかけて催されています。