「岳父」とは
「岳父（がくふ）」とは、舅（しゅうと）つまり、妻の父親のことです。対義語は「岳母（がくぼ）」で、姑（しゅうとめ：妻の母親）です。普通、舅姑は、配偶者の父母のことを指しますが、なぜ、妻の父母のことを岳父、岳母と言うのでしょうか。
その理由は、次の項でご紹介する中国五岳（五大名山）の一つで、「岳」と呼ばれ、霊山として尊ばれている泰山（たいざん）に由来があると言われています。
由来は三つありますが、「岳父」という呼称については、一つ目と二つ目の説を挙げるものが多く、どちらの説も頷けます。しかし、「岳父」本来の意味については、三番目の故事が根拠として有力でしょう。なお、二つ目の説の「岳山」は、泰山のことを指すと考えられます。
「岳父」の由来
一つ目の説は、泰山に「丈人（じょうじん=妻の父）」という峰があること、二つ目の説は、岳山（がくざん）と岳婿山（がくしょざん）という名の山があり、岳婿山には「婿（むこ）」が付いていて岳山の婿という意味になることから、いずれも「岳父」の由来であるというものです。
三つ目の説は、唐の玄宗皇帝の時代に泰山（＝岳）で行われた封禅（ほうぜん：天と地を祭る儀式）の時、宰相の張説（ちょうえつ）が封禅使（封禅の執行責任者）に任ぜられました。
その際、張説の娘婿が異例の出世をしたことから、泰山（＝岳）の力によるものだと言われたことが、「岳父」の由来になったというものです。
「岳父」の使い方
上記の三つ目の説（故事）から、本来、「岳父」は、娘婿の出世を左右する実力がある義父にだけ使われてきました。日本での代表例としては、織田信長と岳父・斎藤道三（信長の妻・濃姫の父）の娘婿・舅の関係が有名です。
しかし、現在では、妻の父親のことを指す敬称として「岳父」が使われています。また、「岳父」は、普段の会話などで使うことは稀で、義父の葬儀の場や死亡を知らせる書面などに使われることが多いようです。「岳父」は、岳翁（がくおう）や岳丈（がくじょう）とも言います。
【例文】
- 今度来る課長は、社長を岳父に持つやり手のエリートだそうだ。
- 本年○○月、岳父○○が○○歳にて永眠いたしました。
「岳父」の関連語
「義父／義母」
「義父（ぎふ）」や「義母（ぎぼ）」は、血のつながりのない父母のことです。配偶者の父母に限らず、養子縁組による父母や親の再婚相手のこともこのように呼びます。
養子縁組による場合は、養親（ようしん）、養父（ようふ）、養母（ようぼ）という呼び方もあります。また、親の再婚相手の場合は、継父（けいふ／ままちち）、継母（けいぼ／ままはは）という呼び方もします。
【例文】
- 近くに住む義母が子供たちの面倒を見てくれたので、夫婦共働きで念願のマイホームを建てることができた。
- 母が再婚した義父（継父）との折り合いが悪くて、一人暮らしをすることにした。
- 幼いころに事故で両親を亡くした僕は、義理の両親（養親）に大事に育ててもらった。
「舅／姑」
「舅（しゅうと）」と「姑（しゅうとめ）」は、それぞれ配偶者の父と母のことです。「舅」の「臼」は、「旧」の旧字「舊」の一部で、年長、年上、古いという意味を持っているところから、年長の男という意味があります。
一方の「姑」は、女が古いと書くので、これも年長の女という意味だと分かりますが、こちらのほうは露骨な感じがしますね。
【例文】
- 今度、夫の両親と同居することになったけど、舅姑と嫁の関係がうまくやれるか心配です。
- 会社が倒産して就職先を探していたら、舅が懇意にしている会社の社長に紹介してくれることになった。
「尊父」とは
「尊父（そんぷ）」は、他人の父親を敬って使う言葉です。さらに敬意を表す場合には「ご（御）尊父」と言います。普段の会話や文章で使うことはあまりなく、他人の亡くなった父親のことを呼ぶとき使うことが多い言葉です。
また、同様の表現や使い方に、他人の母親を「母堂（ぼどう）」「御母堂」、他人の息子や娘のことを「ご子息（しそく）」「ご息女（そくじょ）／ご令嬢（れいじょう）」と言います。
【例文】
- ご尊父様のご逝去（せいきょ）を悼（いた）み、謹んでお悔やみ申しあげます。
- ご母堂様のご急逝の報に接し、驚きを禁じ得ません。