「摯実」とは
「摯実」は「しじつ」と読み、「摯」と「実」から成り立つ熟語です。両者とも複数の意味をもつ言葉ですが、「摯」の意味には、まじめな、手厚いがあり、「実」の意味には、まこと、本当、真実があります。
ふたつの語から連想できるように、「摯実」とは「心がこもり誠実なさま・真面目なさま、真摯(しんし)、また、そのこと。」という意味です
「摯実」の使い方
「摯実」は、あまり日常生活では見たり聞いたりすることはなく、文学の世界で使われることが大半の言葉といえます。ほかに見受けられるとしたら新聞やビジネスの書面などですが、その場合でも、「摯実」ではなく類語の真摯や誠実の言葉を用いていることが多いでしょう。
「摯実」の例文
- 何事にも摯実な対応をする級友は、先生からの信頼が厚い。
- 祖父の摯実の気質は、息子ではなく孫に受け継がれたようだ。
- 講義を聴いている学生たちの面持ちは、摯実そのものであった。
- 長年にわたり摯実に修行をした弟子の作品が、賞をとったときは感無量だった。
- 彼の摯実と熱心さのおかげで、今回の大型案件を得たといっても過言ではない。
「摯実」の類語
複数の意味をもつ言葉の場合は、摯実と同じような意味のみ紹介します。
【誠実】
- 意味:(人・言葉・行為などに対して)真心があり、嘘・偽りがなく、真面目なこと。
- 例文:どの顧客にも誠実な言葉で接する先輩は、同期のなかで一番早く支店長に昇進した。
【真摯(しんし)】
- 意味:真面目で、心がまっすぐで、ひたむきなこと、そのさま。
- 例文:彼は取引先の仕事で重大なミスをおかしたが、そのあと真摯な態度で物事に対応したため、取引を打ち切られることはなかった。
【至誠(しせい)】
- 意味:極めて誠実なこと、このうえもない真心。
- 例文:尊敬する人物の立志伝によると、幼少期に至誠して奉公した経験が、後の人生の礎(いしずえ)になったらしい。
【篤実(とくじつ)】
- 意味:人情に厚く、誠実なこと。
- 例文:同業種のなかでも給与面で多少の見劣りをする会社だが、篤実な人柄の社長のおかげで、勤続年数が長い従業員が多い。
【忠実】
- 意味:真心を尽くしてよくつとめること、真心をもってつとめるさま。
- 例文:忠実な部下がいたおかげで、上司は社長まで昇りつめた。
「摯実」の反対の意味に近い言葉
複数の意味をもつ言葉の場合は、摯実と反対の意味に近い場合のみ記します。
【不誠実】
- 意味:誠意がない、誠実でないこと。
- 例文:さんざん人に世話になっておきながら、関係がなくなると彼は不誠実きわまりない態度をとるようになった。
【不真面目】
- 意味:物事に熱心に取り組まないさま、真面目でないさま。
- 例文:不真面目な態度で野球の練習をしていた後輩は、ついに監督から練習に来なくていいと言われた。
【不熱心】
- 意味:熱心でないこと。
- 例文:仕事に不熱心な後輩の面倒をみることになったので、残業が増えて仕方がない。
【軽薄】
- 意味:慎重な態度がなく誠意が感じられないこと、思慮があさはかで篤実でないこと。
- 例文:軽薄な言動をする隣人は、アルバイト先を頻繁に変えざるをえないようだ。
【無責任】
- 意味:責任を負わないこと。責任を感じないこと。
- 例文:同僚の無責任な発言のおかげで、プロジェクトが中断することになった。
「摯実」まとめ
「摯実」は、誠実や真摯などの類語にくらべ使われる機会が少ない熟語です。場合によっては、この言葉じたいを知らない人もいるでしょう。以下は、歌人・作家として有名な与謝野晶子氏が、「摯実」という言葉を文章に用いている例です。
ー与謝野晶子『与謝野晶子評論集』から「新婦人協会の請願運動」よりー
この文章では、「摯実」という単語を効果的に使い、似たような文章の追随を許さないような印象さえ持ちます。マンネリ化した文章に変化をつけるためにも、言葉を知らない人に紹介するという意味でも、時には「摯実」という言葉を使ってみてはいかがでしょうか。