「君側の奸」の意味
「君側」で君主の間近にいること、「奸」は心がねじ曲がっている正しくない物事や人物のことです。この二つの言葉から成る「君側の奸」(読み:くんそくのかん)とは、君主の側に仕える悪い家臣のこと。すなわち、邪な気持ちを持っている権力者の側近を指しています。
「君側の奸」は、君主を思いのままに操って自分が利益を得るように仕向けることもありますし、君主を騙して良い家臣を遠ざけている場合もあります。いずれにせよ、君主を軽んじていることにかわりありません。
君側の奸と誤解している場合もある
ただし、自分と敵対している人だからといって、必ずしも「君側の奸」とは限りません。その人なりの信条に従って、良政を行おう、君主を助けようと努力していることもあるからです。その場合は、単なる意見の相違ですね。君側の奸かどうかはよく見極めなくてはいけません。
「君側の奸」の使い方
「君側の奸」は、悪い家臣を雇い入れた君主を批判する表現ではありません。側仕えの家臣だけが悪いことを示しています。悪い家臣を側に置いたという理由で君主を責めたり攻撃するのではなく、責めを負うべき諸悪の根源は悪い家臣だけだという考えですね。
このような考え方は、国などの体制を刷新するクーデターを起こすにあたり、自らの正当性を示す大義名分に使われる場合もあります。
君側の奸:文例
- 君側の奸を討伐するという大義名分を掲げて、重臣を滅ぼした。
- 君側の奸を取り除き、君主を助けてクリーンな統治を目指す。
二・二六事件
「君側の奸」を排除しようとクーデター未遂事件を起こした具体例に、二・二六事件が挙げられます。1936年(昭和11年)2月26日に皇道派の陸軍青年将校が「昭和維新、尊皇斬奸」を掲げて、君側の奸と考えた重臣を暗殺しました。
しかし、天皇や陸軍からは反乱軍とみなされクーデターは失敗します。事を起こした将校は、武力で天皇の周囲にいる悪い重臣を排除すれば、天皇自らが正しい政治を行えるようになると信じていました。彼らは政治の腐敗を正し、貧しく苦しい国民の生活を改善しようとしたのです。
「君側の奸」類語:熟語
奸臣
「奸臣(かんしん)」は「姦臣」と表記することもあります。意味するところは、邪悪な家臣、つまり、悪だくみをしている家来です。側仕えというニュアンスは含みませんが、「君側の奸」に近い表現と言えます。
例文:「仕えている主君を倒して自分が主におさまる恐るべき奸臣だ。」
逆臣
「逆臣(ぎゃくしん)」とは、君主に背く臣下、または、謀反を起こした家臣という意味です。「君側の奸」は必ずしも君主に取って代わろうと思っているわけではありませんので、その点においては異なります。
例文:「明智光秀は主君の織田信長に謀反を起こした逆臣です。」
「君側の奸」類語:四字熟語
君側之悪
「君側之悪(くんそくのあく)」とは、君主の側に仕えている悪人や、美辞麗句で君主に取り入って悪巧みをしている家臣のこと。「君側の奸」とほぼ同じ意味ですね。
例文:「君側之悪とされる大臣がいなくなって、国が近代化してきたね。」
社鼠城狐・城狐社鼠
「社鼠城狐(しゃそじょうこ)」あるいは「城狐社鼠(じょうこしゃそ)」とは、仕えている君主の権力を利用して悪事を働く人間のことです。「社鼠」は神社に住むねずみ、「城狐」は城に住むきつねを指し、ともにずる賢い悪者の例えとして用いられています。
これらを完璧に駆除するには神社や城などの立派な建物を取り壊さないといけませんから、 駆逐するのが難しいことも暗示しています。
例文:「社鼠城狐の輩だから、念入りに策を練らないと上手く追い出せないぞ。」
「君側の奸」反対表現
忠臣
「忠臣(ちゅうしん)」とは、君主に対して忠実な家臣、忠義を尽くして仕える家来のことを言います。例えば、反乱が起こったときでも最後まで主君のために尽くすような家臣のことです。
例文:「主君に何があっても裏切らずに、苦境を助けるのが忠臣だ。」
忠義
「忠義(ちゅうぎ)」とは、国家や主君など大切にしている相手に対して尽くし、真心で仕えることを言います。
ただし、「忠義立て」や「忠義面」のような語には、主君に強制されて止むを得ず、あるいは、形だけ忠実な振りをしているといった含みがあります。これらからは真心は感じられませんね。
例文:「他の主君に鞍替えせずに最後まで仕えたため、忠義の人として尊敬されている。」