「暫時」とは?
「暫定的」(ざんていてき)という言葉を思い浮かべれば、「暫時」は(ざんじ)と読むことは推測できるかもしれません。しかし、同じ「暫」という漢字を用いつつも、それぞれの字義は異なります。
この「暫」という漢字の持つ二つの意味を混同すると、熟語の意味を取り違えやすいので、まずは「暫」から解説していきましょう。
「暫」の字義
「暫」は、音読みが(ざん)、訓読みが(しばら・く、しば・し)。字義は、①しばらく、しばし、僅かな間。②仮の、仮に。「暫時」で用いられるのは①の意味、「暫定的」では②の意味です。
「暫時」の意味
「暫時」は、①の意味の「暫」に、時間を表す「時」で構成されています。よって、「暫時」は、「少しの間、少しだけ、しばらくの間、僅かな時間」などを表しています。
「暫定的」とは
②の意味の「暫」を用いた「暫定的」とは、「仮にそうしておくこと、臨時的な措置としてそうしておくこと」意味する言葉です。「暫時」と「暫定的」では、まったく意味が違うことが分かりますね。
「暫時」の使い方
「暫時」は名詞ですが、副詞的な用法も可能です。むしろ、現代では名詞としてよりも副詞的な用法が多いかもしれません。「暫時休憩する」などように、「しばらくの間~する」という表現に頻用されます。
ここで気になってくるのは、「暫時とはどれくらいの時間を指すのか?」という点ではないでしょうか。しかし、電話の待ち時間、仕事の休憩、報告書提出の猶予、など状況や個人の感覚によって時間経過に対するや感覚も異なってきますよね。
そのため、具体的に何分、何時間という基準はありません。一般的な感覚、常識的な時間などを加味して、その都度判断するようにしましょう。
「暫時」の文例
- 彼らが目の前で夫婦喧嘩を始めたため、暫時、仲裁も忘れて呆然としてしまった。
- マラソンのゴールを切ったとたん、暫時は呼吸困難になり、周囲に心配をかけた。
- 団体のお客様がお帰りになったので、暫時休憩をとってください。
- 担当者に替わりますので、受話器をそのままに暫時お待ちください。
- 使用したデータが誤っていたので、レポートの書き直しに暫時の猶予を頂けないでしょうか。
「暫時」と「漸次」「随時」「順次」
「暫時」と読み違えたり意味を取り違えたりすることが多い言葉には、次のようなものがあります。
【漸次】(ぜんじ)
「次第に、徐々に」という意味を表す副詞です。「台風は漸次東に移動している」のように用いられます。「漸」には「ようやく、だんだんと」などの字義があります。
【随時】(ずいじ)
「適宜行う、好きなときにいつでも」といった意味の副詞です。「アルバイトは随時募集している」のように使います。「随」には「成り行きに任せる、従う」などの字義があります。
【順次】(じゅんじ)
「順次」には複数の意味がありますが、使用頻度が高いのは「順繰りに、順序に従って行う」という意味でしょう。「順次入場をご案内します」のように用いられます。「順」には「従う」や「順番」などの字義があります。
こうしてみると、それぞれ「暫時」とは似ても似つかぬ意味であることが分かりますね。混同しそうになったときは、キーとなる漢字の意味を手がかりにすると良いでしょう。
「暫時」の類語
「しばらく」の意味と使い方
「暫時」の類語として、もっとも一般的に馴染み深いものは「しばらく」(暫く)でしょう。漢字表記が「暫時」の「暫」であることからも、類語の代表といえますが、すべての意味において完全に一致する言葉とはいえません。
「しばらく」の意味は、①「少しの間、しばし、すぐではないにしても、それほど時間がかからないさま」、②「時間的にある程度は長く続くさま、当面」、③「一時的であるさま」です。「暫時」の類語としては①の意味が該当します。
②と③については、その場の状況や文脈から判断する、あるいは、使い分ける必要があるでしょう。
文例:3時間のワークショップですから、途中でしばらく休憩をはさみたいと考えています。
「一時的」の意味と使い方
「一時的」は、「しばらくの間だけであるさま、状況や状態が長く続かないさま、その場限り、少しだけ、臨時であるさま」という意味をもつ言葉です。
たとえば、地域の治安の悪化により一時的に店舗を閉店、という場合を考えてみましょう。閉店は臨時のことであったとしても、治安が回復しなければ、1週間、1ヶ月と閉店期間が延びてしまうかもしれません。
このように、「一時的」は、時間の短さを意味する場合もありますが、回数が一回であったり臨時であったりという頻度の少なさに重点がおかれる場合もありますので、使い分けに注意しましょう。
文例:台風による被害のため当遊園地は休園いたしますが、一時的な対処ですのでご理解ください。