「暫く」の読み方
「暫」には音読みと訓読みがあり、「暫く」は訓読みで、「しばらく」と読みます。また音読みでは「ザン」と読みます。「暫」は、斬(車+斧(斤)と日から成りたつ会意形声文字で、部首は日になります。
「暫く」の意味と使い方
「暫く」とは「しまらく」の音が変化したものです。いくつかの意味があり、使用例とともに説明します。
1.それほど長くはないが、すぐでもない時間がかかるさま。少しの間。わずかの間。
・暫くお待ちください。
・暫くしてドアが開いた。
・列車の発車が暫く遅れた。
2.ある程度の長い時間が続くさま。久しいこと。久しぶり。
・暫く柿を食べていない。
・暫くぶりに偶然会った。
・お店を暫くお休みする。
3.一時的なさま。仮に。ひとまず。「姑く」とも書く。
・暫くこのメンバーでチームを組む。
・緑のペンがないから暫く青のペンを使う。
また「暫」を音読みの「ザン」と読んだ場合、この字を使った言葉に「暫時(ざんじ)」「暫定(ざんてい)」等あります。前者は、しばらくの間の意味で、後者は仮に定めるという意味です。「暫く」の意味が分かっていると、熟語の意味も推察しやすいです。く」と
「暫く」と読み間違えやすい言葉
「暫く」も読みにくい漢字ですが、同じようなタイプの漢字に「漸く」もあります。「漸く」は「ようやく」と読みます。「漸く」は、だんだんと、やっと、かろうじて、ゆっくりと等の意味があります。また、どちらも「斬」の文字が入り、訓読みが「漢字+く」で、さらに時を表すということも同じです。
そして「暫く」と「漸く」は、読みにくいうえ共通なことも多く、逆に読み違いをしてしまうことも多いです。どうしたら読み間違いをしないでしょうか。それぞれの漢字の部首に注目して、「漸(ゼン)」は「さんずい(水)ですが、「暫」は「日」です。日は時を表すので、その文字の象形から、時を斬りとる→少しの短い時→しばらく、と連想して覚えるのがいいでしょう。
歌舞伎の「暫」
また、「暫」と漢字一文字でも、「しばらく」と読む場合があります。これは「歌舞伎十八番」(かぶきじゅうはちばん)*1のひとつで、人気の高い演目です。元禄10(1697)年に、初代市川團十郎が初演した代表的な荒事*2で、主役の荒事役が「しばらく」と声をかけて登場し、悪人たちを懲らしめます。それ以外は、上演ごとに筋を新作し、明治時代に現行定本となりました。
*1歌舞伎の演目で、天保年間に、七代目市川團十郎が市川宗家のお家芸として選んだ、当り狂言十八番。このなかで特に上演回数が多いのが、「助六」「勧進帳」「暫」の三番。
*2歌舞伎で、荒武者や鬼神など、怪力や超人的な力をもつ主役が、その勇猛ぶりをみせる演出様式。
「暫く」という落とし穴
「暫く」という言葉は、時間の経過を表す言葉のひとつですが、その経過時間を数字などできちんと表さない分、あいまいさが残ります。場合によっては解釈の相違により、トラブルにもなりかねません。
例えば、AさんがBさんに「暫く会えない」と言ったとします。Aさんは半年のつもりでも、Bさんは一ヶ月と解釈するかもしれません。つまり「暫く」は、人により意味する期間が違うので、はっきりと分からないと困る場合は、「暫く」と言われたら、具体的な数字できいておいた方がいいでしょう。
このように「暫く」は、人により意味・解釈が異なる言葉で、それが好都合のこともあれば、不都合なこともあります。難しい読み方とともに、場合により言葉の使い方も難しいことも、念頭に置くといいでしょう。