「心苦しい」とは
対人関係おいて、人はさまざまな感情を抱きます。「心苦しい」と思うのもその一つで、相手のことを気にかけたり、思いやったりする気持ちを表した言葉です。
「心苦しい」の意味は以下の通り三つあります。
- 心に痛みを感じる。つらく切なく感じる。
- 申し訳なく思う気持ち。気がとがめること。
- 相手を気遣う様子。気の毒、気がかりに思う。心配に思う。
元来の「心苦しい」の意味は、自分がつらいと感じるさま(1の意味)でしたが、平安時代には、他人のことを思って心が痛む場合や相手がつらいと感じる様子(3の意味)という意味が派生しました。また、2の意味は、近世以降に使われるようになったと言われています。
「心苦しい」の使い方
「心苦しい」の三つの意味、それぞれの使い方をご紹介します。しかし、人の心情は複雑ですし、上記のような意味の変遷を考えると、状況によってはそれぞれの意味が重なったりしていることもあります。
1の意味
相手の言動(特に行動)や境遇に同情し、相手と同じような痛みや苦しみを我が事のように感じる場合に使うのが、「心苦しい」の1の意味です。
【例文】
- 彼が、一人で年老いた両親の介護をしている苦労を思うと、私も心苦しくてじっとしていられなかった。
- 事故や病気で子供に先立たれた親の悲しみを思うと、とても心苦しい。
2の意味
2の意味では、相手の好意に対して申し訳なく感じたり、気がとがめたりすることを表すのが「心苦しい」の2の意味です。また、相手の希望を柔らかく拒絶するようなときにも使います。
【例文】
- 三度目の結婚を、友人たちが盛大に祝ってくれるというのを、とても心苦しく思う。
- 大変心苦しいのですが、今回のご要望には沿うことができません。
3の意味
「心苦しい」の3の意味は、1の意味と似ていますね。境が曖昧なこともありますが、1は自分のことのように辛い、3は相手を案じたり気遣ったりするという点に重点が置かれている表現です。
【例文】
- ニュースで孤独死の話題が報じられるたびに、他人事ながら心苦しく感じることが多い。
- 新型感染症の影響で、職を失ったり、いじめを受けたりする話を聞くたびに怒りとともに心苦しい思いがする。
「心苦しい」の類語
「気の毒」
「気の毒(きのどく)」は複数の意味を持つ言葉です。「心苦しい」の類語としては、①他人の不幸な様子に同情して心を痛めることや、そのさま、②他人に迷惑をかけて申し訳なく思うことや、そのさまが当てはまります。
【例文】
- 優勝間違いなしと言われていたチームが惨敗し、落ち込んでいる選手たちが気の毒で見ていられなかった。
- エントリーしてくれた学生たちには気の毒だが、急激な業績不振で今年は新入社員の採用を見送ることにした。
「悲しい」
「悲しい」には、いとおしい、残念な、悔しいなどの意味もあります。しかし、「心苦しい」に類するのは、心が痛んで泣けてくるような気持ち、または、そのような気持ちを起こさせる物事の様子という意味です。
心に痛みを感じたり、気の毒に思ったりする感情の延長線上にあるという点で「心苦しい」の1や3の意味の類語と言えるでしょう。
【例文】
- 世界中で多くの人が病気や飢餓(きが)で亡くなっていることを思うと悲しい気持ちでいっぱいになる。
- 何度経験しても、失恋は悲しいものだ。
「切ない」
「切ない(せつない)」にも複数の意味がありますが、「心苦しい」の意味1に近いのは、胸が締めつけられるような思いで苦しいということです。ただし、「切ない」の場合は、相手の境遇だけでなく、自分の境遇に対して用いることも多くある点では少し異なります。
【例文】
- 愛猫が死んで、元気なころの写真や動画を見ていると切ない思いがこみ上げてきた。
- 精神的に追い詰められた彼女は、電話の向こうから切ない声で助けを求めてきた。
「申し訳ない」
「申し訳ない(もうしわけない)」は、言い訳や弁解ができないといった意味から、申し訳ありませんなどと謝罪の表現に使われます。この意味では「心苦しい」の2の意味の類語と言えます。
【例文】
- 納期までに約束のものが用意できず、ご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありません。
- 折角のパーティにお招きいただいたのに出席できず申し訳ありません。