「令月」とは
「令月(れいげつ)」には、二つの意味があります。
- 何事をするにもよい月。めでたい月。
- 陰暦2月の異名(太陽暦の2月のことを言う場合もあります。)
「月」は、①1年12か月の「月」、②夜空に浮かぶ「月」、③七曜の「月曜日」のことです。「令」については、多義語ですので次項で詳述します。
陰暦2月を表す「令月」は「麗月(れいげつ)」とも表記されます。この場合は上記1の意味はなく、「気品があって、感動するほど美しい月」を意味します。「麗」の「整っていて美しい」という意味が反映され、月の美しさを表現しています。
「令」の意味
「令」は、「(音読み)レイ、リョウ、(訓読み)いいつけ、おさ、よい」と読み、以下のようにたくさんの意味があります。
- 神のお告げや、君主・役所・上位者のいいつけ:「勅令(ちょくれい)」「軍令(ぐんれい)」など
- おきて。お達し:「法令」「律令(りつりょう)」など
- よい。清らかで美しい。立派な:「令色(れいしょく:相手に気に入られようとして顔色をつくろうこと)」「令名(れいめい:名声、いい評判)」「令聞(れいぶん:清らかな言葉やよい評判)」など
- 他人の親族に対する敬称:「令室(れいしつ)」「令嬢」など
「令月」における「令」は、3の意味で使われています。
古典等で使われている「令」
以下は、古典などにおける「令」の意味です。現代で使われることはまずありませんが、参考として紹介しておきます。
- おさ(長):「県令(けんれい:昔の中国の県の長官)」
- 遊びごとのきまり:「酒令(酒宴で酒を飲む順序を指名する遊び)」
- 命令する:「不令而行=令せざれども行はる(命令しても従わないこと『論語・子路』」
- しむ。せしむ。使役の意。させる:▽「令+A(人)+B(動作)」の形で「AをしてBをせしむ(Aに命じて,Bをさせる)」
- 仮定の意:もし~あらしめたならば。
「令月」の使い方
- 旧暦2月を「令月」と言うそうだけど、あまり聞かないね。旧暦なら「如月(きさらぎ)」のほうがよく聞くよ。
- 春の穏やかな気候は、卒業、入学、就職、何をするにしてもいい時期だから、「令月」という言葉がよく合うと思う。
- 来月の友人の結婚式でスピーチを頼まれたが、「令月」を使った話をしようと思っている。
「令月」の出典
『万葉集』
新元号「令和」の典拠である『万葉集』の「梅花の歌三十二首」には、以下のような序詩があります。
初春の令月にして、気淑(よ)く風和(なご)み、梅は鏡前の粉を披(ひら)き、蘭は珮(はい)後の香を薫らす
「新春の好(よ)き月、空気は美しく風はやわらかに、梅は美女が鏡の前で装う白粉(おしろい)のように白く咲き、蘭は身を飾った香のような香りを漂わせている」という意味です。
これは、奈良時代の大宰府の長官で歌人の大伴旅人(おおとものたびと)が詠んだ序文です。「梅花の歌三十二首」は、彼の屋敷で開かれた「梅花の宴」で、梅の花を題材に詠まれた歌をまとめたものです。
『和漢朗詠集』
『和漢朗詠集』にも、「令月」が使われている歌があります。『和漢朗詠集』は、平安時代中期の公卿で歌人の藤原公任(ふじわらのきんとう)が、漢詩・漢文・和歌を集めた、朗詠のための詩文集です。
「良い季節にあって、喜び極(きわ)まりなく、千年万年を祝っても、その楽しみは尽きることがない」という意味です。
この歌は、藤原道長の孫(後一条天皇)の誕生を祝う宴でも朗詠されたと、紫式部日記に記されています。現代でも、「よい日とよい月。めでたい時節」という意味で「嘉辰令月(かしんれいげつ)」という四字熟語が使われています。