「人夫」の意味
「人夫」(にんぷ)という言葉には、次の二つの意味があります。
- 公役に徴用された人民。夫役(ぶやく)を課せられた人民。
- 力仕事に従事する労働者。人足(にんそく)。
現代語で「人夫」と言った場合には、下線を引いた2の意味での使用例が多いため、本記事でもこちらの意味を中心に解説を行います。
「夫」の意味
「夫」(フ)の字は、「おっと」すなわち「妻の配偶者」としての意味がよく知られていますが、その他にも「成年に達した男子」、「労働にたずさわる男」、「戦に借り集められた兵」といった意味があります。
「車夫」「農夫」「水夫」など、労働、とくに肉体労働に関係する男性を表す言葉はいくつかあります。「人夫」は職種・労働の種類を特定せず、「力仕事に従事する男一般」を指す言葉であると考えましょう。
「人夫」の使い方
「人夫」という言葉は、「力仕事に従事する男性」であれば幅広く使用することができます。該当例としては、建築業界で働く現場の作業員、収穫時期など繁忙期に集められる農業人員などです。
仕事をする男性は一般的な存在であり、また一次産業など力仕事が求められる仕事は現代でも少なくありません。そのため、例えその業種を特定できない場合でも「成人した男」を指して「人夫」と呼ばれることもあります。
ただし、あくまでも「力仕事」をする者限定であるため、例えばサラリーマン、管理職、作家、ショップスタッフなどは「人夫」には該当しません。
注意点:差別用語としての側面がある
「人夫」には、いわゆる「ブルーカラー」に近いイメージがあります。すなわち「頭脳労働ができないために身体を使って働くしかない者」「下賤(げせん)な仕事」「単純労働」といった差別的なイメージを伴うことがあるのです。
これは、労働者を「数」としてコストやスケジュールを計算し、その能力・個性・成果を原則評価しない業態において、労働者が軽んじられる傾向があるためと考えられます。
「人夫」がはっきり差別用語として一般に認識されているわけではありません。あくまでも「労働者」の意味で「人夫」という言葉が使われる業界は現在もあり、取り立てて大きな問題ともされません。
しかし、例えば公共放送等では「人夫」という言葉は回避される傾向にあり、「労働者」「作業員」といった言葉で置き換えれられるのが通例であるため、公の場では使用を避けたほうが無難でしょう。
例文
- その建設現場では、若い人夫が首に巻いたタオルで汗をぬぐいつつ、陽気な歌を歌っていた。
- 事件の捜査担当になった刑事は、さっそく工場で働く人夫に話を聞きにいった。驚くべきことに、彼は事件そのものを間近で目撃したという。
- 港湾部を歩くと、何もせずぶらついている人夫の姿が多く目についた。今は休業期なのだろうか。
「人夫」の類語
「人足」
「人足」(にんそく)は、荷物運びなど簡単な力仕事に従事する労働者を意味する言葉です。「人夫」の同義語として考えて差支えありません。
「土方」
「土方」(どかた)とは、土木工事に従事する労働者のことです。土木工事は肉体労働の代名詞であり、どれだけ機械化が進んでも一定の作業員が必要となることから、「人夫」の代表的な例と言えます。
また近年では、純粋な肉体労働ではないのにも関わらず、下請けや外注のIT技術者(プログラマーなど)がスラング的に「IT土方」(あいてぃーどかた)と呼ばれることもあります。
これは、技術者が土木作業員さながらに労働力を「数」として扱われ、無理のあるスケジュールに追われるなど過酷な扱いを受けることに由来しています。
「人夫」を英語で言うと?
「人夫」の英訳にあたる表現は、以下の通りです。
- laborer
- worker
- workman
「laborer」は「肉体労働者」の意味ですので「人夫」のニュアンスが近いでしょう。「worker」「workman」は「作業する者、作業員」の意味です。
なお、一定の技術や専門性を持った労働者の場合は「craftman」や「~hand」といった訳語が適当です。
例文
- He works his laborers long hours.(彼は人夫たちを長時間働かせている)
- During the busy season, we hire a workman by the day.(繁忙期には、日雇いの人夫を雇います)