悪貨とは
「悪貨」とは「質の悪いお金」のことです。偽札や偽物のコインをイメージするとわかりやすいかもしれません。本当なら100%の純金のはずなのに50%しか入っていない金貨や、完全に偽造されたお札などが典型的な「悪貨」です。
「悪貨は良貨を駆逐する(あっかはりょうかをくちくする)」ということわざで有名ですね。
悪貨は良貨を駆逐する
「悪貨は良貨を駆逐する」とは「粗悪品や質の悪いものが品質で優れたものを押しのけて排除してしまう」や「悪人がのさばると善人や正直者が報われず不遇な目に合う」といった意味のことわざです。
元々は経済学の学説で、グレシャムの法則と呼ばれていました。「とある条件の下では品質の悪い通貨の方が、品質の良い通貨よりも市場に流通しやすい」という学説です。偽札で買い物ができるなら、わざわざ本物のお金で買い物はしないでしょうね。
以下のページでも「悪貨は良貨を駆逐する」について詳しく説明しています。
悪貨の使い方
「悪貨」は元々「品質の悪いお金」でしたが、近年では「品質の悪い人や物、考え方などのたとえ」として使われることが増えています。以下の例文で実際にどう使われているか確認しましょう。
例文
- 「悪貨は良貨を駆逐するとはいうけれど、あの人が入ってからいい人が次々にいなくなって、変な人が増えたよね。」
- 「うちのブランドからしたらさ、あの手の会社はタダ乗りして迷惑だけかける悪貨でしかないんだよね。」
- 以前は定時で帰るために努力する風習だったが、あの次長のせいでだらだら残る習慣ができてしまった。あの人は会社の悪貨だ。
「悪貨が良貨を駆逐した」例
case1:ヘンリー8世統治下の英国
かつて英国にヘンリー8世という君主がいました。イングランド国教会を開いた王様として知られています。
さて、この王様、大変な貧乏人でした。といっても当時は貧乏な王様も珍しいものではありません。なぜならその時代には、政府が使うお金の不足は王様が出すことになっていたのですから。
では、貧乏な王様はどうやってお金を調達したらよいでしょう。側近のクロムウェルが考えた方法、それがお金の価値を下げるというものです。そうしてできたのが質の悪い「悪貨」です。
結果、英国の良貨は海外出の取引にのみ使われ、国内では悪貨ばかりが使われるようになりました。それを立て直したのが、エリザベス1世とグレシャムでした。
case2:五代将軍徳川綱吉
悪貨を流通させた人物が日本にもいます。徳川五代将軍綱吉と側近荻原重秀です。綱吉は前半は儒学を重視する文治政治を進めていましたが、後半に悪政を進めます。有名な生類憐みの令や、部下の大量処罰ですね。これらは『忠臣蔵』や『水戸黄門』でも見られます。
綱吉はさらに寺社への大量献金なども行い、江戸幕府は財政赤字になりました。そこで、側近の荻原重秀が進言した政策が悪貨の流通です。
この結果江戸はインフレーションに陥りました。代替わりしたのちの新井白石らが政策をとりやめると、今度はデフレに陥ります。結局、八代将軍吉宗まで経済は安定しませんでした。
悪貨の関連語
良貨
「良貨」は文字通り「悪貨」の対義語です。質の良いお金を指します。その他、「悪貨」が悪人や粗悪品を指す場合には善人や正規品となりますが、「悪貨」と違い単独ではあまり使われません。
奇貨
「奇貨(きか)」は「悪貨」や「良貨」とは関係ありません。「非常に珍しいもの」や「良いチャンス」という意味です。「奇貨居(お)くべし」という次のような中国の故事に由来します。
商人は思いました。「これは珍しくて価値のあるものだ。奇貨居くべし。恩を売っておくといつか良いことがあるかもしれない」
商人は財を惜しまず、王子様を手助けしてやりました。月日は流れ、王子様が王様になった時、商人はついに大臣になれました。
ここから、珍しくて利用価値のあるもの、将来役に立ちそうなものを指す言葉として使われています。