「悪貨は良貨を駆逐する」の読み方と意味
「悪貨は良貨を駆逐する」ということわざは、「悪貨(あっか)」、つまり質の悪いお金が、「良貨(りょうか)」、すなわち質の良いお金を「駆逐(くちく)する」(追い払う、立ち退かせる)という意味です。
このことわざは、次項でご説明する通り、本来は経済学の学説を要約したもので、簡単に述べると「一定の条件下では、質の劣る通貨の方が、高品質の通貨よりも多く市場に流通する」といった意味合いを示します。
ただこの表現が転じて、日常的な会話や文章などの中では、一般には「世の中では悪いものの方がはびこり、良いものを押しのけてしまうものだ」や「悪がのさばると善は滅びる」といった比喩的な意味で用いられることが多くなっています。
「悪貨は良貨を駆逐する」の語源
「悪貨は良貨を駆逐する」は、元来はことわざや故事成語ではなく、経済学の法則を一文に要約したものです。これは十六世紀の英国で、エドワード六世やエリザベス一世のもとで財務顧問を務めた貿易商、トーマス・グレシャムが唱えたものです。別名「グレシャムの法則」と呼ばれています。
グレシャムは時の国王エリザベス一世に「英国の良貨が外国に流出するのは、貨幣を改悪したためだ」と進言しました。これは「一つの国家社会の中で、名目上の価値が同じなのに、実質的には価値が異なる貨幣が同時に流通すると、高価値の貨幣は退蔵されて使われなくなり、低価値の貨幣だけが出回るようになる」という経済理論を示したものです。
文章で読むといかにも難しそうですが、考えてみれば、仮に「額面1万円」でコイン屋では3万円で買い取ってくれる金貨と、同じ「額面1万円」でも二千円の値打ちしかない銅貨があれば、金貨の方はは使わずにしまっておき、銅貨だけをお店で使うのは当たり前のことですね。ちなみにこれは、昔の「金本位制」時代の法則であり、紙幣中心の現代の通貨制度には当てはまりません。
「悪貨は良貨を駆逐する」の使い方と例文
「悪貨は良貨を駆逐する」の正しい使い方
このように「悪貨は良貨を駆逐する」は、本来は経済法則のことですが、現在の日本語の中ではそうした学説からは離れて、「悪人や悪事がはびこる社会では、善人や良い志は隅に追いやられてしまう」といった意味合いのことわざとして使われるのが一般的です。
その際注意すべきなのは、「かつてはブームだったものが、最近は見なくなった」とか「鳴り物入りで登場したのに、今は誰も使っていない」といった文脈で使うのは誤用だということです。例えば、最近はすっかりちまたで見なくなった「二千円札」について話す際に、「悪貨は良貨を駆逐するというが、二千円札もすっかり姿を消したね」といった言い方をするのは正しくありません。
「悪貨は良貨を駆逐する」の例文
- 最近は偽ブランドの商品ばかり目立って、高級ブランド品はあまり売れないらしいが、まさに悪貨は良貨を駆逐する、だね。
- ネット上では今、著作権を無視した違法な映画や音楽作品などの流通が増えているという。これこそ「悪貨は良貨を駆逐する」現象ではないだろうか。
「悪貨は良貨を駆逐する」の類似表現
- 「憎まれっ子世(よ)に憚(はばか)る」…人に憎まれるような者ほど、かえって世間にのさばり、幅を利かせるものだ。
- 「悪事(あくじ)千里(せんり)を走る」…良い行いはなかなか世の中に伝わらないが、逆に悪い評判はすぐに人々に伝わり、遠方にまで広まるものだ。
- 「渋柿(しぶがき)の長持ち」…食べられない渋柿は誰からも取られないため、長く生きながらえる。転じて「何の取り柄もない人や悪人ほど、しぶとく長生きする」ということの例え。
「悪貨は良貨を駆逐する」のまとめ
がんやウイルスではありませんが、人間社会の中では、とかくネガティブな考え方やマイナス思考というのは、広く伝播しやすいもののようです。駆逐されることのないよう、社会や心の「悪貨」の芽を早くつみ、「良貨」を大事にする姿勢が、一人一人に必要だといえるのではないでしょうか。