「誇張」とは
本当は仔猫ぐらいの大きさなのに、犬のように大きかった、いや虎のようだったと、手を大きく広げて大袈裟に話す人いませんか。話の内容や、身振り手振りが「誇張」「誇張表現」です。修辞法として言う場合には「誇張法」になります。
「誇張」の意味
「誇張(こちょう)」とは、「実際より大げさに表現すること」です。「実際よりよく見せるために、部分だけを強調したり」、「まるっきりの嘘ではないけれど、嘘といえる程度まで話を膨らませたりすること」も「誇張」の意味になります。
- 自治体は原発の安全性を強調したが、関連資料をよく読むと誇張だったことが分かった。
- あの人は大分話を盛っていて、誇張がひどい。話半分で聞くのが賢明だ。
- 猫が主人、飼い主僕(しもべ)というのは誇張表現だが、猫の性質や飼い主の溺愛をよく表している。
言葉を使った「誇張表現」
- 故郷に帰れる日を、一日千秋の思いで待っていた。
「誇張表現」には成句が山ほど(数の多さの誇張)あります。皆さんは「寒くて死にそう」(感覚の誇張)なんて言いませんか?「死にそう」と言ったところで、救急車を呼ばれることはありませんよね。このように、「誇張表現」は日常生活に溶け込んで使われているのです。
- 僕の家庭菜園は、猫の額ほどの広さだが満足している。(狭い・小さいことを誇張)
- 〇〇は神!(称賛の誇張)
- 全米が泣いた。(CM・キャッチコピー・感動の誇張)
- 私は誰にも負けません。(根拠がない、自己アピールの誇張)
言葉を使わない「誇張表現」
「誇張」は言葉だけではありません。絵画や演劇などの芸術分野、漫画や映画などの娯楽や映像分野ほか、「誇張表現」が広く行われています。
例えば江戸時代後期の浮世絵画家、写楽の代表作、役者似絵『三代目大田鬼次の奴江戸兵衛』は誇張表現を使った作品です。
「にらみ」の表情は実際より強調されていたり、手が顔との比率から明らかに小さく、写実的ではありませんが、「歌舞伎」というものを見事に的確に表現しています。「誇張」には物事を明確にし、強く印象づける効果があります。
「誇張」のメリット
「誇張」を使うのも場面によって良し悪しです。メリットとしては、以下のような例が挙げられます。
- 豊かな文学表現になる。
- コマーシャルやキャッチコピーでは「誇張表現」で印象やその商品の売れ行きを左右する。
- 特に舞台演劇で「誇張」した演技が行われる。遠くの観客にも分かりやすくなる。
- 話にメリハリが出ておもしろくなる。要点がわかりやすくなる。感情のありかが分かる。
- 実際にはあり得ないほど誇張すれば、おかしさや面白みがでてユーモアになる。
「誇張」のデメリット
- 決断や事実確認が必要な時、報告に「誇張」が入ると、結果にかかわることがある。
- 科学論証ではご法度。
- 個人の主観に流される。
- 度が過ぎると嘘になる。
中国の古典は「誇張」の宝庫
中国の古典には「誇張表現」がよく見られます。なかでも「誇張」を多様した代表的存在は、杜甫と並んで中国最大の古典詩人と称された李白です。
縁愁似箇長
不知明鏡裏
何処得秋霜
『秋浦歌 其の十五』 李白
訳文)私の白髪は三千丈(約9km)、長年の愁いのせいだろう。私の知らぬ間に鏡の内側で、何処からこの霜(白髪=老い)を得たのだろうか。
白髪が9kmもあるのは、いくらなんでも誇張が過ぎますね。日本では「誇張」の類語にもなっている「白髪三千丈」ですが、長年の愁いや老いに至るまでの時間を白髪に託した「誇張表現」です。
李白以外にも、「驚天動地」(白居易)・「危機一髪」(韓愈)など、日本にも知られた誇張表現の熟語があります。中国の古典、特に詩の分野は、「誇張表現」の宝庫と言えるでしょう。
この他にも、中国の歴史書は数の記述に正確性を求めず、実際は兵士1万人のところを10万人、20万人と、豪快に水増しする傾向があるといわれています。中国といえば壮大、というイメージは、国土が広いことの他に、こんなところから来ているのかもしれませんね。
「誇張」の英語表現
誇張を表す英単語には「hyperbole」や「overstatement(誇張して発言すること)」などがあります。また誇張表現を使用した慣用句には、以下のようなものがあります。
- I am dying for this pretty cat.(このかわいい猫が欲しくてたまらない。)
- I could eat a horse.(はらぺこだ。)
- You are killing me. (いい加減にしてよ。)