「逼塞」とは
「逼塞(ひっそく)」には、以下のような意味があります。
- 八方ふさがりで、どうしようもないこと。
- 落ちぶれて、ひっそりと暮らすこと。
- 江戸時代の武士や僧侶に科された刑罰の一つで、屋敷の門を閉ざして昼間の出入りを禁止したもの。
辞書によっては、1または、2の意味しか記載していないものもあります。一般的には、ある原因によりどうしようもなくなって落ちぶれるのでしょう。とすれば、2は1から派生した状態です。そこで、1を載せた辞書と、最終的な結果として2を記した辞書とがあると考えられます。
3の刑罰は、時代劇などで武家屋敷の門に青竹を交差させて出入りができないようにしてあるところを見たことがある人もいるのではないでしょうか。同様の刑罰には、重い順に閉門、逼塞、遠慮がありました。
「逼塞」の字義
「逼」は、音読み「ヒツ。ヒョク」、訓読み「せま-る」と読みます。意味は、①せまる、さしせまる、近づく、②せばまる、縮まるなどです。「逼塞」以外に、「逼迫(ひっぱく)」がよく使われる熟語です。
一方の「塞」は、音読み「サイ。ソク」、訓読み「ふさ-ぐ。ふさ-がる。せーく。とりで。みち-る」と読みます。意味は、①ふさぐ、ふさがる、とざす、②とりで、地形の険しい要害の地です。
「塞」だけでは、分かりにくいですが、「脳梗塞(のうこうそく)・閉塞(へいそく)・要塞(ようさい)」のような熟語を見ると意味に頷けるのではないでしょうか。
これら「逼」と「塞」の二つの漢字の意味から、上記のような「逼塞」の意味が生まれています。
「逼塞」の使い方
例えば、世の中には借金などの経済的な問題で生活を維持できなくなったり、不祥事や失敗で地位を失脚したりして、どうしようもないところまで追い込まれたとします。ここまでが1の意味です。
さらに状況が悪くなると、住まいや職場から姿を消して身を潜めるということが起こり得ます。それが2の意味です。この例のように、「逼塞」の意味1と2には因果関係があります。以下では、この二つの意味の違いに分けて例文を紹介します。
1の意味「八方ふさがりでどうしようもないこと」
- 会社の資金繰りが悪化して、もうどこも貸してくれない逼塞状態だ。
- 政治改革を叫んでいたあの議員は、党内の派閥争いに巻き込まれて孤立し、逼塞を余儀なくされてしまったらしい。
- 感染症の影響で逼塞状態にあった国際経済が、徐々に復活の兆しを見せている。
2の意味「落ちぶれてひっそりと暮らすこと」
- 落ちぶれて実家に戻ったが、妻はこの逼塞した生活に嫌気がさして出て行ってしまった。
- 先輩は、左遷されて逼塞しているが、このままで終わるような人ではないよ。
「逼塞」の類語
「切迫」
「切迫(せっぱく)」は、期日がさし迫ること、緊張した状態や追い詰められた状態になることという意味で、「逼塞」の1の意味の類語です。また、医学的には、呼吸や脈が小刻みに早くなることを「切迫」と言います。
【例文】
- 手形の期日が切迫しているが金策がうまくいかず、このままだと倒産するかもしれない。
- 最近、国際関係が切迫した状態になっている。
「急迫」
「急迫(きゅうはく)」は、物事が差し迫った状態になること、危険などが急速に迫ってくることです。例として正当防衛に関する規定を見てみましょう。
ー刑法36条1項ー
【例文】
- 大型台風の影響で傷んだ生家を早く何とかしないと、次の台風で倒壊するのは間違いないと言われるほど急迫した事態になっている。
- 急迫した感染症の蔓延(まんえん)に対し、急遽、町がロックダウンされた。
「斜陽」
「斜陽(しゃよう)」は、西に傾いた太陽、また、斜めにさす夕日のことですが、勢いのあったものが衰えることの比喩としても使われる言葉です。後者は「逼塞」の2の意味の類語と言えるでしょう。
太宰治(だざいおさむ)のベストセラー小説『斜陽』では、敗戦で没落した貴族の姿が描かれています。ここから「斜陽族」(没落階級のこと)という流行語も生まれました。
【例文】
- 今のSF映画はCGが主流で、かつての特撮技術は斜陽時代も過ぎ、ほとんど見られない。
- バブル経済のにわか長者たちは、バブルの崩壊と共にほとんどが斜陽族となった。