「にわか」の表記と語源
「にわか」と平仮名で記す以外に、漢字で書くこともあります。「俄か・俄」、「仁輪加」や「仁和賀」などです。「にわか」の語源には、諸説あります。
語源(説①):大衆娯楽に由来するもの
大衆娯楽として人気を博した「俄」が何の前触れもなく、始まることに端を発するというものです。
語源(説②):「俄」の漢字の成り立ちから
「俄」の漢字の成り立ちに由来するというもの。「俄」には、平穏無事に運んできた状況が、急にガクンと折れ曲がるという意味を含んでいます。そこから、突発的な変化を意味するようになったというものです。
①名詞としての「にわか」その1
「俄(にわか)狂言」を略して「にわか」と呼びます。「俄狂言」とは、素人が即興で演じる芝居です。江戸時代から明治時代にかけて大都市で流行し、「吉原俄」・「大阪俄」・「博多俄」などが名を馳せました。
時代を経るにしたがって、生業する人もいたそうです。「仁輪加」・「仁和賀」・「二輪嘉」などの当て字を使う場合もあります。
名詞「にわか」その1文例
- 大阪俄は、遊郭の座敷芸から発展を遂げ、曾我廼家(そがのや)喜劇の源となりました。
- 博多俄は、幕末から明治にかけて盆踊りを型とした即興の寸劇です。
- 吉原俄は、江戸時代に遊郭において約1ヶ月間もかけて行われていた吉原三大名物の1つとして数えられていました。
①名詞としての「にわか」その2
次の例に見られるように、後続する名詞に「急ぎの」や「突然の」といった意味を加えて複合語を作ります。文脈によって表記を選択できますね。
- にわか雨:突然激しく降るけれどもすぐ止む雨。
- にわか仕込み:何とか間に合わせるために、短期間で覚えること。
- にわか雪:何の前触れもなく降り出して、すぐに止む雪。
- にわか勉強:テスト前だけ勉強に取り組む様子。
- 俄分限(ぶげん):突如として大金を手にすること/手にした人。
現代的な言葉と組み合わせることで、用例に広がりが見られます。
- にわかオタク:何の前触れもなく、一時的にある事柄に熱中してしまう人。
- にわかファン:大成功を収めたと聞くと、急にある人・スポーツなどを好きになる人。
名詞「にわか」その2文例
- にわか雨に降られたけれど、傘を準備していたので濡れませんでした。
- その子は、にわか勉強ばかりするので、母親にいつも注意されています。
- ワールドカップが開催されると、にわかファンが現れるようになります。
②形容動詞としての「にわか」
物事が突発的に変化する様子を表す際に用いられます。
2.”何かに接して、その反応がすぐ起こる様子。”
3.”変化が急に行われ、かつその変化がすぐやむ様子。”
形容動詞「にわか」の文例
形容動詞の終止形は「にわかだ」で、主に使われる場合は連用形の「にわかに」という形です。「急に」や「すぐに」といった言葉で置き換えることができます。
- 最近、にわかに寒くなってきましたね。
- にわかにその質問に答えることはできません。
- 先生の顔を見ると、にわかにその生徒は駆け出しました。
- そんなうまい話は、にわかには信じられません。
古文における「にわか」
では、古文ではどんな使い方がされているのでしょう。「にはかになる」で使われると、「容態が急変する」という意味になります。現代では、この用例を見ることはできません。
出典:「源氏物語」・桐壺
(現代語訳)嵐が吹いて、急に肌寒くなった夕暮れの頃。
出典:「古事記」・景行
(現代語訳)倭建命(やまとたけるのみこと)のご病気が急変して危篤状態に陥られた。
「にわか」についてのまとめ
「にわか」は、漢字で「俄か・俄」と書き、意味は次の2つです。名詞としては、大衆娯楽として発展した即興の寸劇のことを表します。かつて、賑わっていたところでは、当地の名を冠した表記も珍しくありません。漢字で書く場合は、「仁輪加」や「仁和賀」など様々です。また、形容動詞としては、物事が急に進んでいく様子を意味します。
後ろに名詞を置き、「にわかオタク」などのように現代語と組み合わせて使うことも可能です。このように、「にわか」は組み合わせしだいで幅が広くなり、新たな意味を持たせることができます。