「よろしおす」とは
「よろしおす」は、京ことばです。意味は「いいですね」、つまり、物事の質・外観・内容などについて「良い」と表現できる場合の言葉です。ほかにも「よろしおすなあ」とか「よろしおすえ」という言い方が同じ意味で使われています。
京ことばは、柔らかい感じがするので女性言葉とも思われがちですが、京都の男性も「よろしおす」とか「よろしおすなあ」といった言い方をする人が結構あります。また、商売人は、「よろしおます」「よろしおまんなあ」と言うこともあります。
「よろしおす」の使い方
「よろしおす」は、「良い」と肯定的な感情や意見を表していますが、状況によっては反対の意味で使われることもあります。
例えば、次の項の最初の例文は、新車を買ったことを「良い」と一緒に喜ぶような場面です。しかし、相手との関係(日ごろから仲が悪いなど)によっては、皮肉や冷笑などの感情が込められています。
もっとも、いわゆる標準語の日常会話でも、相手との関係性では皮肉や冷笑、侮蔑の感情を込めて肯定的な言葉を使うことがありますから、京都に限ったことではありません。ただ、やわらかい言葉の中に負の感情などを忍ばせるのは京ことばの特徴の一つです。
例文
- まあ、新車かわはったん。ほんによろしおすなあ。(新車を買ったんですね。本当にいいですね)
- さよか。東福寺の紅葉は見頃どしたか。それはよろしおしたなあ。(そうですか。東福寺の紅葉は見頃でしかた。それはよかったですね)
- よろしおす。私があんじょうやっときます。(いいでしょう。私がちゃんとしておきます)
反対の意味の見分け方
上の車の例文を使って反対の意味の見分け方を見てみます。よく知っている人同士であればともかく、例えば、引っ越して間もない時に、隣人(代々京都人)から例文のように話しかけられても、上の例文だけでは、本当に良いと思っているのかそうでないのかが判別できません。
そういう時は、前後の文脈に注目して判断します。特に「よろしおす」の後の文脈に肯定的な言葉が続く場合は「いいですね」というそのままの意味で使われていることがわかります。
「まあ、新車かわはったん。ほんによろしおすなあ」の後に、「うちの息子もおんなじ車持ってるんどすけど、ほんまにええ車ですなあ」というように続けば、肯定的に言われていると判断しても間違いではないでしょう。
「京ことば」あれこれ
次に、「よろしおす」以外の京ことばをいくつかご紹介します。
「あい」
「あい」には、二つの意味があります。一つは「普段、平素」、もう一つは「鮎(あゆ)」のことです。「鮎」は、「あゆ」の「ゆ」が「い」に転化したものです。
【例文】
- 来週、あいの日にご飯食べに行こか。(「間の日」と書いて、予定のない日、あるいは平日のこと)
- 古来、宮廷の女御たちは「鮎」を高貴な色とされている「藍」になぞらえて、「あい」と呼んでいた。
「あらけない」
「あらけない」は、乱暴なこと、粗暴なことを言います。漢字表記は「荒気ない」です。
【例文】
- あんた、そんなあらけないことしてたらあかんえ。
- あらけないこと言うてたら、あの人に嫌われるえ。あんじょうしよし。
「はんなり」
「はんなり」は、上品で華やかなさまや明るいさまのことです。ちなみに、京都のプロバスケットボールチームは、「京都ハンナリーズ」と命名されています。
【例文】
- 名前はええけど、はんなりしたプレーでは、試合に勝つことは難しおすやろなあ。
- 今日のあんたの服、はんなりしててええ感じや。
「へんねし」
「へんねし」は、拗(す)ねたり、ヤキモキしたりすることです。辞書を引くと、「へんねし」は「へんねじ」とも言い、嫉妬や妬みと説明されています。しかし、自分の思い通りにならなくて我を張ったり、逆らったりするという意味の京ことばの「へんねし」とは異なっています。
【例文】
- またそんなへんねし起こして、みんな見てはるやないか。
- あんたが、弟ばっかり可愛がるから、お兄ちゃんがすぐへんねし起こしてかなんわ。
「にぬき」
最後は、食べ物です。ゆで卵のことを「にぬき」と言います。「煮抜く」というところから来ていると言われています。大学進学や就職・転勤で京都に来た人が、首をかしげる食べ物の名前の一つです。