「胸三寸」の意味
「胸三寸(むねさんずん)」は、胸の中、心の中にある考えや感情のことを意味します。すでに他の人に知られている考えや感情ではなく、他の人には知られずに自分の胸の中だけにあるものを指します。
「胸三寸」の使い方
- このプロジェクトを実現できるかどうかは社長の胸三寸次第であるため、立案メンバーは社長からの言葉をただ待つしかない。
- どう見てもこの計画は失敗にしか見えないだろうが、どんな結果になるかは、彼の胸三寸によるところが大きい。
「胸三寸」の由来
「胸三寸」の「胸」には、首から腹の間の身体の前面の部分といった身体的な意味の他に、心の中という意味もあります。また「三寸」は、長さにすると約3.03センチメートルですが、この場合には短いことを表すたとえとして使われています。
これらの意味を持つ言葉を組み合わせることで、心の中から離れていない狭い範囲であることを表し、その人の心の中にある考えということを表現しています。
「胸三寸」と「胸先三寸」
「胸先三寸(むなさきさんずん)」は、胸のすぐ近くにあるみぞおちのあたりを意味し、胸の中のことではなく、胸の外にある部分を示す表現です。しかし、時代の変化とともに、胸の中を表す表現としても使われるようになりました。
そのような変化から、心の中の考えを表す場合に、「胸三寸」というべきところを「胸先三寸」と誤用されることがありますが、これは「胸三寸」と、口先だけで心のこもっていない言葉を意味する「舌先三寸」が混ざって使われるようになったものとされています。
言葉は時代とともに変化するものであり、「胸先三寸」は、現在、多くの人に使われていることから、一概に誤りとすることはできないという考え方がある一方で、「誤用だ」とする考え方も少なくありません。相手に対する印象を考えるなら、「胸三寸」を使う方が無難でしょう。
「胸三寸」を用いた慣用句
「胸三寸」という言葉を用いることで、その人の胸の中だけに持っている考えや感情であることを伝えることができますが、「胸三寸」を用いた慣用句を使うことで、その考えや感情を胸の中に秘めていることを強調することができます。
胸三寸に納める
「胸三寸に納める」とは、考えや感情などを心の中に隠して、顔色や言葉などにいっさい出さずに胸の中にしまっておくことです。「胸に納める」という言葉を使っても同じ意味を表すことができます。
【例文】
- 今日起こった出来事は、私の胸三寸に納めておこうと思う。
- 私は子どもの頃に大きな間違いをしてしまったが、父はそれを責めることなく胸三寸に納めておいてくれた。
胸三寸に畳む
「胸三寸に畳む」は、心の中にある考えなどを胸の中に隠して、表面にはいっさい出さないことを表します。「畳む」という言葉自体にも、「表面に出すことなく隠している・胸の中に秘めておく」という意味があります。先述した「胸三寸に納める」と同様の使い方ができます。
【例文】
- 彼は、この悲しみを胸三寸に畳むことを心に誓った。
- 「自分ひとりがこの思いを胸三寸に畳むことでみんなが幸せになるのなら」と、彼女は考えていた。
「胸三寸」の類語
「胸三寸」は、その人の心の中に秘めている考えや感情を表すのにぴったりな表現ですが、「秘めている・隠している」というイメージを与えてしまうこともあるでしょう。
胸の中のことは常に隠されているとは限りませんから、「胸の中」を表すことのできる他の表現についても見ておきましょう。
胸中(きょうちゅう)
「胸中(きょうちゅう)」は、心の中で思っていることや心の中の状態を表す言葉です。「秘めている」というニュアンスはなく、シンプルに「心の中」ということだけを伝えることができます。
【例文】
- 彼女の胸中を思うと、私の胸も張り裂けそうなほどにつらい。
- とても苦しくて、私の胸中をすべて吐き出してしまいたい衝動に駆られる。
意中(いちゅう)
「意中(いちゅう)」もまた、心の中で思っていることや胸の中を表す言葉です。
「意中の人」という表現を聞いたことのある方は多いでしょう。「意中の人」とは、心の中で決めている人のことですので、主に恋人や結婚相手のことを指して使われることが多いようです。
【例文】
- 現状にあまりにも疲れ果ててしまったため、思わず後輩に意中を漏らしてしまった。
- 彼女の意中の人は、誰もが知っているスーパースターだ。
念頭(ねんとう)
「念頭(ねんとう)」は、心の中にある思いや頭の中という意味です。「念頭」の「念」という漢字には「いつも気にかけている」といった意味があります。
「念頭」を使うことで、「常に思っている」というニュアンスを伝えることもできます。例えば、「いつも心にかける」ことを意味する「念頭に置く」といった慣用句を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。
【例文】
- 今度の試験への不安が念頭を去らず、勉強に集中できない。
- 私たちのことなど彼の念頭にはまったくない。