「馥郁」とは?
「馥郁」は<ふくいく>と読み、「よいの香りのただようさま」という意味です。文語的な表現であり、見かけるのは文学作品の中などに限られているでしょう。
稀ですが、字を転倒させて「郁馥」(いくふく)とされることもあります。
字義
「馥郁」の漢字の意味を確認しておきましょう。まず、「馥」(フク)の字は「香」と「复」から成ります。「复」は「富=ゆたか」に通じており、すなわち「馥」は「香りがゆたか」という意を表します。
一方の「郁」(イク)は、文化や香気などが「盛んなさま」という意味です。訓読みでは「さか-ん」のほかに「かぐわ-しい」という読みがあることからも、香りに関係する意味があることがわかります。
以上の通り「馥郁」は、「香り」に関係する言葉が二つ重ねられた言葉です。「香り」には「美しさ」や「何となく良い感じ」という意義もあるため、「香りがゆたかで、さかん」と言い表す「馥郁」は、とても良い意味であることがわかりますね。
「馥郁」の使い方
「馥郁」は使われる形がほぼ決まっており、「馥郁たる~」および「馥郁と(として)~」の2例にほぼ限られています。「~は馥郁だ」「馥郁の~」といった形では使用できませんのでご注意ください。
「馥郁」と言われるものは原則として「良い香り」のものです。具体的には、香水や香草、もぎたての果実など、(もし嫌いでなければ)深呼吸して胸いっぱいに吸い込みたい種類の香りですね。
ただし、肉を炙(あぶ)る時の匂いのような、多くの人間が好むとされる匂いであっても「馥郁」が使われない例もあります。明確な定義はないようですが、揮発性の、ふわっと立つ良い香りというイメージが「馥郁」にはあるようです。
必ずしも嗅覚を基準とする必要はない
少々意外に感じられるかもしれませんが、「馥郁」と表現するするものは、物理的に嗅覚で感知できないものであっても構いません。
字義の項でご紹介しました通り、「香り」には「美しい」「何となく良い感じ」という意味がありますので、広義には「美しい愛情」や「良い音楽」なども「馥郁たる(馥郁と)」と表現することができます。
嗅覚は、一説には動物的本能に深く結びついた感覚と言われています。そのため、実際に鼻を使わずとも、身体に染みわたる心地よい感覚からは、言葉が意味を持つ以前の、原始的な「香り」が想起されていると言えるのかもしれません。
例文
- セージ、ローズマリー、ラベンダー。ハーブ売りの少女のまわりは、馥郁たる香りに満ちている。
- 最近、家でコーヒーを淹れるのに凝っているのだが、専門店で味わう一杯のような馥郁とした香気がなかなか出せない。
- その優しい目をした女は、母親を思わせる深い愛の気配を馥郁と放っていた。
- 今どきクラシック音楽なんてと馬鹿にしていたけど、一流の交響楽団が奏でる馥郁たる響きには、心を打たれた。
「馥郁」を英語で言うと?
「馥郁」を英語で言いたい場合には、「fragrance」が適当です。「フレグランス」というカタカナ語は、日本語の中でも使われることがありますね。形容詞として使うのであれば「fragrant」です。
英語のさまざまなかおり・におい
語彙の数はその言語の文化の広さを表すと言われますが、英語には「香り・匂い」に関連する言葉がとても多くあります。その中から「良いにおい」を意味する単語を紹介しますと、以下の通りです。
- smell…中性的なにおい。良いにおいにも悪いにおいにも使える。
- scent…かぎ分けるようなかすかな良いにおい。
- aroma…特徴のある良いにおい。
- perfume…香水のようなにおい、もしくは香水のこと。
- fragrance…「かぐわしい」におい。
「馥郁」は「良い香り」のことですが、「aroma」のように必ず特徴があるわけでも、「perfume」のように香水と限定するわけでもないので、「fragrance」が適当であるといえますね。
例文
- The garden in the early morning was full of fragrant flowers.(早朝の庭園は馥郁たる花の香りで満ちていた)