「拙著」とは?
「拙著」(せっちょ)とは、自分の著作(自著)、すなわち自分で書いた書物を「拙い著作」とへりくだって表現した言葉です。
商業出版であれ、自費出版であれ、基本的に本の体裁をとって出版された書物を対象として用いられますが、自身の論文や文章などを自分でまとめた私家版なども「拙著」と表現することができます。
この言葉をよく見聞きするという人は多くないことでしょう。一方、著述業、学者、研究者、詩人・歌人など「言葉」の分野で活動する人々の間では、「拙著」の文字が頻繁に行きかっているかもしれません。
というのも、自らの著書を知人に贈呈したり紹介したりする場合に、「拙い著作ですが」というへりくだりの気持ちで添えるケースが殆どであるため、そのような分野や立場の人間と縁のない人々にとっては、あまり目にすることがない言葉なのです。
「拙著」の使い方
「拙著」は、基本的に文章のなかで用いられることが多い言葉です。謙遜、へりくだりの表現ですから、著者本人が自著について表現する場合にのみ用いられます。自分以外の人間の著作物に対して「拙著」を用いることはありえません。
「拙著」という言葉をどのように使うかを、いくつかの文例として下記にご紹介いたします。
「拙著」の文例
- このたび謹呈させて頂きました拙著、『青い羅針盤』は、二十代にバックパッカーとして世界を歩いた日々を記したエッセイ集です。お時間おありの時にお目通し頂ければ幸いです。
- 地球温暖化についての研究論文をまとめた拙著を貴図書館に贈呈したく、郵送させて頂いた次第です。
- 拙著ではございますが、この春に自費出版した自分史をご送付させて頂きます。
- 「鈴木君から自分史が送られてきたんだ。添えられた手紙には、拙著としながらも、三枚にわたって自慢と宣伝が記されていて、閉口したよ。」
「拙」の字について
「拙」という字は、音読みが(せつ)、訓読みが(つたない)です。意味は、①つたないこと、上手でないこと。②自分、自分に関することをへりくだって表現する語。「拙著」の「拙」は、②の意味で用いられています。
この「拙」の使い方を覚えておくと、目上の人などに自身にまつわるものを紹介する時などに役に立ちそうです。いくつかの例を下記に挙げておきます。
- 拙作
- 拙稿
- 拙文
- 拙宅
- 拙家
「拙著」の類語
「拙作」の意味と使い方
「拙作」とは、拙い作品を意味します。「拙著」同様に、自作をへりくだって表現した言葉です。「拙著」が出版された本を対象とするのに対し、「拙作」は、自分の手による作品を広く対象とします。
絵画、陶芸、手芸、なんであれ自分の作品に用いることができますから、使われる頻度もより高い言葉といえましょう。
【文例】長く油絵を描いてまいりましたが、このたび拙作を一堂に会し、銀座の『ジェームス・ギャラリー』にて個展を開くこととなりました。
「愚作」の意味と使い方
「愚作」とは、取るに足らないくだらない作品を意味します。「拙作」とよく似た意味の言葉ですが、「愚作」は他者の作品に対しても使われることのある言葉です。
自らの作品に、謙遜の思いで用いることができるとはいえ、真から失敗作だと思わない限り、おとしめる力が強い言葉ですので、「拙作」のほうが無難といえましょう。
他者の作品に関していえば、基本的にきわめて失礼に当たる表現なので注意しましょう。評論家が対象の作品に対して手厳しい論評を下すときなどに目にする言葉といえます。
【文例】
- 陶芸のグループ展に向けてコーヒーカップを作ってみたのだけれど、あまりの愚作ぶりに嫌気がさして、割ってしまった。
- A監督が久しぶりにメガホンを取った今回の新作映画だが、残念なことに愚作だと言わざるを得ない。