「趨勢」とは?
意味
「趨勢(すうせい)」とは、物事が進む様子、動向、成り行きという意味です。「この国の趨勢を考える」などのように、主に何か大きなものの時間的・歴史的な変化を対象として用いられます。
漢字
漢字から「趨勢」の意味を紐解きますと、まず「趨」の字は「はしる(走)」と「せく(芻)」から、「小走りでせわしなくむかう」「ある方向へおもむく」意味。
一方の「勢」の字は「いきおい、活力」の意味でおなじみですが、「姿勢」「運勢」などの言葉に見られるように「ありさま」「なりゆき」の意も表し、「趨勢」の場合もこちらの意味です。
したがって、「趨勢」の字は、ある物事がどこかへ向かっていくありさま、その成り行きなどの意味を表していることがわかりますね。
「権勢にしたがう」という意味もある
「趨勢」には、「権勢(権力など)にしたがう」という意味もあります。「勢」の字には「軍隊、権力」などに通じる意味があり、また「趨」にも、「高貴な人の前を避けて、せわしなく走る」という意味があるからです。
しかし、現代では「趨勢」が「権勢にしたがう」という意で使用されることは稀ですので、この記事では「物事の進んでいく方向や、その傾向」という意味に絞って解説を進めます。
「趨勢」の使い方
「趨勢」は、さまざまな物事について用いることができます。「万物は流転する」という格言の通り、あらゆる物事は、それに対する人間の価値観とともに変化し流動します。「趨勢」は、その変化の動向や行く末を捉えて表現する言葉といえるでしょう。
しかしながら、「人間の変化」「好みの変化」のような、個人単位で変化するような小さめのスケールの物事に対しては「趨勢」はほとんど用いられません。
例えるならば大きな河の流れのように、個人の意思には左右されない時代の変化や、大局的な視点で見た事態の成り行き・動向を言い表すのが「趨勢」です。
用例
- 私が子どものころは、悪いことをすると親に殴られたこともあったが、これも時代の趨勢か、今では虐待として罰せられる。
- 技術庁のトップとして、この国の科学技術の趨勢を、今後も注意深く見守っていきたい。
- 社会の趨勢に後押しされてか、わが社でも男性社員が堂々と育児休暇をとれるようになった。
- 気象衛星による観測技術の進歩により、天候の趨勢を知ることは昔よりもたやすくなった。
「趨勢」の類語
「趨勢」の類語としては、以下のような言葉が挙げられます。
- 情勢
- 形勢
- 時流
- 風潮
- 流れ
いずれの語も物事の「変化」や「変化のありさま、傾向」に通じる意味をもっていることが共通項です。「趨勢」はやや堅い表現ですので、必要に応じてこれらの語と言い換えましょう。
「形勢」について
ただし、上に挙げた中で「形勢」のみ、「物事が変化するその時点」に注目するニュアンスが強めとなっています。物事の大局的な変化のありようを表す「趨勢」とは、場合によっては使い方が異なる場合がありますのでご注意ください。
【例】
- 〇〇の趨勢を見極める。(←これまでどう変化してきたか、これからどう変化するか、現時点の方向性も含め、大きな流れを見極める)
- 〇〇の形勢を見極める。(←現時点でどのような方向に変化しているかを見極める)
「趨勢」の英語表現
「趨勢」を英語で表現する際には、以下のような単語が適当です。
- trend
- current
「trend」はそのまま「トレンド」というカタカナ語として使用されていますね。主に「(ファッションの)流行」といった意味で使われていますが、元の英単語には「趨勢」と同じように「方向、向き」という意味もあります。
「current」は、「(空気や水の)流れ」、派生的に「時代の流れ、風潮」などの意味もあります。形容詞として用いる場合には、「一般に行われている」「普及している」「目下の、最新の」などの意味です。
用例
- The business took a down trend.(景気の趨勢は下り坂だ)
- The phrase is no longer in current use.(その言葉はもはや時代の趨勢に合わない)