「ネット私刑」の意味
「ネット私刑」とは、ネット上で見られる私的な制裁のことです。具体的には、違法行為や問題行動を起こした人物に関する、名前や顔写真、住所、職場などの個人情報をネット上に晒すことです。晒された情報は瞬く間に拡散して、いつまでもネット上に残ります。
よく似た言葉に「炎上」があります。「ネット私刑」は「炎上」に比べると、「制裁」という意味合いが強くなります。SNSのアカウントなどに批判的な意見が多く集まるのが「炎上」ですが、そこからさらに発展して、個人情報が晒されることが「ネット私刑」です。
晒された個人情報をもとに自宅や職場にまで苦情が殺到することもあり、「ネット私刑」は「ネット」とはついているものの、たんにネット上の問題では済まない場合があります。
「ネット私刑」の使い方
- ネット私刑なんて、関わらない方がいいよ。
- ネット私刑の裏で、デマが氾濫しています。
- はたして、ネット私刑は必要悪なのだろうか……。
- 法で罰せられなくても、ネット私刑の方が怖いこともあるからね。
「ネット私刑」の「私刑」って何?
「しけい」というと「死刑」の方を思い浮かべがちですが、「ネット私刑」の「しけい」は「私」の「刑」と書いて「私刑」です。
「私刑」の意味
「私刑」とは、英語でいう「リンチ」のことで、下記のような意味があります。
- 法律によらないで、勝手に制裁を加えること。私的制裁。
- 正規の裁判などの手続きを取らずに行う暴力的制裁。
「私刑」の「私」とは「わたし」「自分」という意味ではありません。民間が運営している学校を「私立」と呼び、行政が運営する「公立」と対比させているように、「私刑」の「私」には「民間の」「個人的な」という意味があります。
本来、刑罰は裁判所という司法機関によって法律に基づいて行われます。しかし、「私刑」の場合は、法律とは無関係に個人が勝手に制裁を加える行為を指します。
「私刑」の問題点
上でも触れたとおり、刑罰は本来、法律に基づいて行われるもの。どの行為を罪と認定し、それに対してどの程度の刑罰が妥当かということは、裁判によって明確にされます。
しかし、法律に基づいていない「私刑」の場合、基準はいつも制裁する側の感情です。制裁する側が「赦せない!」と感じればそれだけで私刑の対象となり得ます。また、「刑罰はこの程度にする」という規則もないので、歯止めが利きません。
「ネット私刑」の問題点
「ネット私刑」にも「私刑」と同様の問題点があります。しかも、「ネット私刑」の場合は、リツイートボタンをクリックするという手軽さで、次から次へと情報が拡散されて制裁が進んでしまうのです。
また、誤った情報が流されて、無関係の人が制裁を受けてしまうこともあります。仮に、発信元となった人が訂正情報を流したところで、ネット上に一度出た情報を回収することはできません。このように、「ネット私刑」には、ネット特有の問題も含まれています。
「ネット私刑」って違法じゃないの?
SNSにおいては、誰もが簡単に情報を発信、拡散することができます。正義感に基づいて「ネット私刑」を行うことを、手軽な正義と考える人もいるかもしれませんが、「ネット私刑」に違法性はあるのでしょうか?
他人の名誉を著しく傷つける情報を勝手に公開した場合、「名誉棄損罪」に問われることがあります。ここで注意しなければいけないのは、「公開した内容が事実であろうとなかろうと、名誉棄損は成立する」という点です。
その人の名誉を傷つける情報であれば、嘘の情報はもちろん、それがたとえ本当のことだったとしても名誉棄損は成立します。「本当のこと言って何が悪いんだよ!」という言い訳は通用しません。
また、全く無関係の人を犯人だとする誤った情報を拡散させてしまったことで、損害賠償に問われるケースも多く発生しています。
「ネット私刑」のトラブルに巻き込まれないために
上記のような名誉棄損や損害賠償といったトラブルに巻き込まれないためには、「不用意な拡散はしない」、この一点に限ります。
自分の投稿・書き込みだけでなく、リツイートも「その人が自分の意思で投稿したもの」と同じように扱われます。
デマ情報をリツイートした場合は、「デマ情報を拡散した」という扱いになってしまいます。「リツイートボタンを押しただけ」という言い訳は通用しないのです。
真偽不明の情報や画像、動画は不用意に拡散せず、どうしても看過できないのであれば警察に通報して、情報提供をすることも必要でしょう。