「斡旋」とは
「斡旋(あっせん)」という言葉は、日常会話ではあまり使わない言葉ですが、ニュースや新聞などでは、犯罪や労使問題の報道で見聞きすることがあります。
「斡旋」の基本的な意味は、「人や組織の間に入って、両者の間で事がうまく運ぶように取り持つこと。世話をすること」です。
この意味を受けて、法律を根拠にした「斡旋」という手続きがあります。一例を挙げれば、労働者側と使用者側の間に入って労働問題の解決を図る斡旋がありますが、法律については後ほど詳述します。
このように「斡旋」には、少し難しくて、かたくるしい部分があるため、とっつきにくいかもしれません。理解を深めるために、まずは「斡」と「旋」それぞれの字義についてみていきましょう。
「斡」とは
「斡」は、音読みで「アツ。カン」、訓読みで「めぐ-る。つかさど-る」と読みます。意味は、①「めぐる。めぐらす。まわる。まわす」、②「つかさどる。管理する」です。
「斡」の「斗」の部分は「北斗星」を、「倝」の部分は、もとは「ひしゃく」を指していたところ、のちに「小さな車」を表すようになりました。そこから「斡」は「北極星を中心にして北斗星がまわること」を示す漢字となり、ここから「めぐる」意味が生まれました。
「斡旋」の「斡」は、このような意味を受けて、人や組織の間をめぐる(間に入る)という意味で使われています。
「旋」とは
「旋」は、音読みで「せん」、訓読みで「めぐ-る」と読みます。意味は、①「ぐるぐるまわる」、②「元に戻る」、③「(あちこち回り歩いて)仲を取り持つ」です。②と③の意味は、「旋」が本来持つ「ぐるぐるまわる」という意味が発展して生まれたものです。
つまり「斡旋」は、それぞれの字義を組み合わせ「まわって仲を取り持つ=人や組織の間をめぐって仲を取り持つ」と解釈できますね。
「斡旋」の使い方
「斡旋」は、仕事や住居の世話をするときに使われる言葉ですが、違法な仕事の仲立ちとなる場合にも用いられることがあります。
例文
- 不動産仲介業を営んでいる叔父は、近くの大学の委託を受けて学生たちにワンルームマンションなどの斡旋をしている。
- ○○議員が、某私立大学医学部の裏口入学を斡旋しているというスクープ記事が週刊誌に載った。
- 国際紛争の斡旋は、国連事務総長の重要な任務の一つとされている。
- 売春や密入国を斡旋していた業者が摘発され、大勢の人間が逮捕されたという報道があった。
法律を根拠にする「斡旋」
「斡旋」は「両者の仲を取り持つ」のが基本ですが、例文でも紹介したように違法な斡旋も存在します。それを規制し、被害者を保護するためにさまざまな法律で「斡旋」が取り上げられています。
法律で使われている「斡旋」はたくさんありますが、そのうちのいくつかをご紹介します。なお、法律の多くは「斡旋」を平仮名で「あつせん」と表記しています。
消費者基本法
この法律では、19条で事業者と消費者のトラブルを解決するために地方公共団体に対して「苦情処理等の斡旋」に努める義務を定めています。また、25条で国民生活センターの職務の一つとして「苦情処理の斡旋」を規定しています。
労働関係調整法
冒頭でも少し説明しましたが、この法律は「労働争議(労働者と使用者の間のトラブル)の予防や解決」を目的としていて、「斡旋」は10条から16条に規定されています。この法律では「斡旋員」が「斡旋」を行います。
公害紛争処理法
この法律は、公害にかかわるトラブルを解決する手段として斡旋・調停(ちょうてい)・仲裁(ちゅうさい)および裁定の制度を設けて、迅速かつ適正な解決を図ることを目的としています。斡旋は28条に規定されています。
刑法
刑法197条の4には、「あっせん収賄罪」が定められています。
この条文でいう「請託(せいたく)」とは、「第三者が、公務員に、内々で特別に一定の職務行為を行うように依頼すること」です。つまり、公務員でない第三者が、自分の利益のために知り合いの公務員に頼みごとをすることです。
そして、この請託を受けた公務員が、第三者の利益となるように権限のある公務員に不正行為をするように斡旋したり、報酬(賄賂:わいろ)を受け取る職務上の行為を処罰するということです。なお、公務員に賄賂を送った第三者は、贈賄罪(198条)によって処罰されます。