「手負いの獣」とは?
一般的には
「手負いの獣」とはケガをした動物、あるいは追い詰められた人のことです。事故にあったり転んだりしてもケガをしますが、ここでは他の動物や狩人に攻撃されてケガをしたと考えてみましょう。
皆さんは誰かに攻撃されたらどうしますか?戦う人もいれば、逃げる人もいるでしょう。いわゆる「fight or flight」の選択ですね。
逃げ切れるなら逃げてもよいのですが、逃げ場がなかったらどうでしょう?自分の命を守るためには戦うしかないですよね。それも命がけの大勝負、死に物狂いで。
このように、退路を断たれて捨て身の抵抗をする動物を「手負いの獣」と呼びます。ここから転じて、逃げ道がなくなり必死で抵抗する人のことも指すようになりました。
SNS由来の意味
「手負いの獣」はtwitterユーザーの投稿から、生理前の女性を指す言葉として使われることもあります。
男性が甘く受け取らないように、という意図で使われているそう。女性の間でも賛否両論ありますが、少なからず支持している人もいるようです。
「手負いの獣」の使い方
OK例
「手負いの獣」は動物だけでなく、人間にも使うことができます。一般的な使い方ではありますが、動物にたとえているので、人によってはいい気分を害すことがあるかもしれません。
物理的にケガをしている場合はもちろん、精神的に追い詰められている場合など、デリケートな心理にも使われます。必死の攻撃を試みる、気が立っている状態を表す言葉です。
【OK例文】
- 手負いの獣ほど恐ろしいものはない。儂も未熟なハンターのせいでケガを負ったクマに襲われたことがある。
- 受験直前だが模試で点数が足りず、彼は手負いの獣のようにいらだっていた。
- 癇癪(かんしゃく)を起した子供が手負いの獣のごとく暴れている。
NG例
「手負いの獣」はケガをして追い詰められた動物です。なので、弱りきってあとはとどめを刺すだけの動物だとか、ぼろぼろで落ちぶれた人を対象につい使ってしまいそうですね。
しかし、「手負いの獣」はいわゆる「袋のネズミ」のような意味では使われません。捨て身で反撃してくる危険性を示す表現です。以下はすべて誤用です。
【NG例文】
- 相次ぐ不祥事でライバル会社はすでに手負いの獣。業界1位はわが社のものよ。
- 大将を討ち取られた軍など手負いの獣、恐るるに足らん。けちらしてしまえ。
- 手負いの獣ごときに何ができるというのだ?
「手負い獅子」と「手負い猪」
「手負いの獣」には多くの変化形があります。例えば、「手負い獅子」や「手負い虎」、「手負い猪」など。動物の種類が変わるだけなので、意味や使い方は変わりません。
大手の辞書をめくると、「手負い猪」だけが載っています。読み方は「ておいじし」ですが、ライオンではなくイノシシです。
世界的にはライオンの方が国旗や文学でも取り上げられていて人気のようですが、日本では本州以南で見られるイノシシの方が身近な存在だったようですね。
「手負いの獣」の類義語
背水の陣
「手負いの獣」と似た意味の言葉に「背水の陣」があります。誰もが一度は聞いたことがあるような、有名な言葉ですね。中国漢代に韓信(かんしん)が川の前に陣をひいて捨て身で戦ったことに由来します。
言い換えて使うこともできますが、「背水の陣」が主体的な行動であるのに対し、「手負いの獣」は受動的な表現であると区別することもできます。
窮鼠猫をかむ
「手負いの獣」の類義語に「窮鼠猫を噛む(きゅうそねこをかむ)」があります。追い詰められたネズミがネコにかみつくことから、追い詰められた弱者は強者を打ち破ることがあるという意味で使われることわざです。
鼬の最後っ屁
「鼬の最後っ屁(いたちのさいごっぺ)」とは追い詰められたイタチが悪臭をはなってひるませることから、非常手段や最終兵器のことを指します。
イタチに関することわざは種類が多く、「鼬の道切り」や「鼬の目陰(まかげ)」、「鼬の無き間は貂の誇り(いたちのなきまはてんのほこり)」などがあります。