「詮無きこと」とは?
「詮無きこと」(せんなきこと)とは、起こった問題などに対して、何かしてみてもかいがない、報われることなく無駄である、という意味の言葉です。
その意味には、言外に少々複雑な感情が含まれる場合があります。そのニュアンスがどのようなものかを解く鍵は、「詮」という漢字にあります。
この「詮」は「所詮」(しょせん)という意味があります。「所詮」は、現代でも頻繁に見聞きする言葉ですね。どうこう言っても結局は、どうせ、つまるところは、という意味です。
「所詮、私なんて」「所詮、無理なこと」のように、どこか投げやりであったり、冷めた感情のニュアンスを伴って使われる「所詮」。「詮無きこと」は、もともとは「所詮なきこと」であり、それが簡略化されたもののようです。
このような背景から、「詮無きこと」には、たんに不可能や打つ手がないということではなく、(やってみたって、どうせ無駄でしょう)というような、投げやりな、はすに構えたようなニュアンスがつきまとうのです。
「詮無きこと」の使い方
「詮無きこと」は、現代日本の日常会話ではほとんど聞かれることはなくなりましたが、年配の方々の間ではいまだ健在の言葉です。また、書き言葉や小説には多く見ることのある言葉ですから、理解しておけば役に立つことでしょう。
使い方としては、先述したように、投げやりであったり、皮肉を含んでいたり、ネガティブなニュアンスがあることをふまえる必要があります。
他者からなにか頼まれ事をした時に、なんらかの事情で自分には無理だと伝えたいとします。「私には詮無きことなので」などと言ってしまうと、(どうせやっても意味がない)というような、失礼な態度となってしまいます。
「詮無きこと」の文例
・この道をゆくと決めたのだから、ああすれば良かった、こうすればなどと、詮無きことを言うのはもうやめたまえ。
・セレブな生活がしたかったなどと、詮無きことを言わずに、まず日々の仕事の責務をはたすことです。
・どんなに忘れられない女性でも、結婚してしまった彼女に思いを伝えるのは詮無きことと、ようやく諦めた。
・詮無きことを言うようですが、女性が相撲の土俵にあがれないのは今の時代にそぐわないルールではないでしょうか?
「詮無きこと」を含む名言
「思うて詮無きことは思わず」という禅僧の名言があります。考えても仕方のないことをくよくよと思い煩わない、悩んでも仕方のないことは考えるな、という教えです。
考えて解決策が浮かぶならば、それも意味あることですが、可能性がないとわかっていることで思い煩うのは、たしかに時間の無駄ですね。
「詮無きこと」の類語
「無駄」
無駄とは、なにかをしてもかいがないこと、役に立たないこと、無益なこと、を意味する言葉です。「詮無きこと」に近い言葉ですが、「どうせ・所詮」といった投げやりのニュアンスは含まれません。
【文例】川が増水した結果、堤防がいったん決壊したとなれば、岸辺に近い家々が門前にいくら土嚢を積んでも無駄な努力となってしまう。
「お手上げ」
お手上げは、どうしようもなく、やるべきことがないこと、行き詰ってしまうこと、降参すること、を意味する言葉です。やってもかいがない、という点で、「詮無きこと」の類語たりえます。ただし、この言葉にも「どうせ・所詮」というニュアンスはありません。
【文例】友人の結婚式に出席するために車で出発したが、高速の大渋滞にまきこまれ、開始時間の10分前になっても、式場までは何キロもある。完全にお手上げだ。