「足り得る」は誤り
「彼は社長にふさわしい人物だ」ということを表す時に、「彼は社長足り得る人物だ」とするのは誤りです。正しくは、「彼は社長たり得る人物だ」と言います。
「足り得る」は「たり得る」を漢字表記したものと勘違いしてしまう場合も多いようですので、正しい使い方を覚えておきましょう。
「足り」と「たり」
「足り」の意味
「足り」(足る・足りる)は、「不足することなく十分にものがある」や「資格がある。値する」などの意味です。「人手が足りる」「信じるに足る人物」のように用いられます。後者の用法では、「~するに足る」の形で動詞と組み合わせます。
「たり」の意味
助動詞の「たり」にはさまざまな意味があり、それぞれ構造も異なります。ここでの「たり」は、「状態や性質を肯定や断定する」という意味です。この「たり」は、格助詞の「と」に動詞の「あり」が付いて音変化したものです。
格助詞は体言に付いて、それが他の語とどのような関係にあるかを表します。例えば、「雨が降る」の「が」は、「雨」が「降る」に対する主語にあたることを指しています。
「足り得る」が誤っている理由
「足り得る」は「足る」+「得る」から成ります。「社長足り得る人物」のように使ってしまう人は、「足る」(=値する)に「得る」(=~できる・可能性がある)を重ねて強調しているつもりなのかもしれません。
しかし、上で説明したとおり、「値する」という意味で用いる「足る」は動詞と組み合わせるため、名詞の直後には配置しません。また、「足る」と「得る」を重ねて強調するという用法もありません。よって、こちらは誤りです。
一方で、格助詞「と」+動詞「あり」を原型とする「たり」は体言の直後に付きます。つまり、「たり得る」は、「○○たり」+「得る」のように名詞とセットで使うわけです。
よって、「社長にふさわしい人物」であることを表す時には「社長たり得る」とするのが正しいと言えるのです。
「たり得る」の意味や使い方
「たり得る」の意味
「たり得る」とは、「資格を備えている」または、「値する・ふさわしい」という意味です。「たり得る」は<たりうる>と読みますが、一部の辞書では<たりえる>としています。また、「たり得ない」と否定形にした場合の読み方は<たりえない>に変わります。
「たり得る」の使い方
- 彼は、人柄や実績などから十分に市長の器たり得ると評されている。
- 失敗が続く中、彼女はリーダーたり得ないという声が上がっている。
- さまざまな手段を講じたが、そのことが解決たり得るとは限らない。
- 事件解決に期待がもたれた物品は、証拠たり得えなかった。
「たり得る」の類語
「彼は社長たり得る」は「彼は社長の座に就く資格がある・座に就くのにふさわしい」という意味です。これは「彼の力量=社長に必要な力量」とも解釈できます。ここでは、「AとBは同程度である」のような意味を表す言葉を見てきましょう。
「匹敵する」
「匹敵する」<ひってきする>とは、「力量や地位が同等である」または、「つり合っている」という意味です。
【例文】
- 彼の打撃や守備は、もはやプロ野球選手に匹敵するレベルだ。
- 彼女に匹敵する演技力を持つ女優には会ったことがない。
「見合う」
「見合う」とは、「均衡がとれている」または、「同程度でつり合っている」ことです。また、この他にも「互いに見る・大勢で見る」などの意味もあります。
【例文】
- 転職後は収入が減り、その金額に見合った生活に変えざるを得なかった。
- 今の会社の給料は、仕事量や責任に見合わない。
「比肩する」
「比肩する」<ひけんする>とは「肩を並べる」ことから、「同程度である・同等である」という意味を表します。
【例文】
- 料理の腕を磨き続けたおかげで、彼の店は一流店と比肩する店になった。
- 彼は比肩するもののない偉業を成し遂げた。
「立ち並ぶ/立並ぶ」
「立ち並ぶ/立並ぶ」とは、「人の才能や力量が同じ程度であること」または、「並んで立つ」「同等に扱う」という意味です。
【例文】
- 彼の将棋の腕前はプロに立ち並ぶほどだった。
- この街に彼女の美貌に立ち並ぶ者はいなかった。