「得る」の意味は?
まず、「得る」の基本的な意味は、「手に入れる、獲得する」というものです。具体的な事物を手に入れる場合はもちろんのこと、経験や知識などの抽象的な事物を自分のものにする場合にも使えます。また、心の平静など、特定の状態に入ることも表すことができます。
「得る」の使用例①
- あそこで食料を得られるかもしれない。
- 例の件について、上司の了承を得ることができた。
- 美しい日本庭園をながめて心の平穏を得られた。
「~し得る」
さらに「得る」は、動詞の連用形の後に続いて「~できる」という意味を表します。いわば、英語の助動詞「can」のような役割を果たすということです。
また、この用法の延長線上に、打消しの助動詞「ず」の連体形「ざる」と合わせた言い回し、「~ざるを得ない」というものがあります。これは「~するほかない」といった意味を表します。
さらに、「禁じ得ない」という表現もあります。これは「禁じることができない」、つまり「がまんすることができない」という意味の表現です。
こうした「~し得る」「~し得ない」という言い回しは、「~できる」「~できない」などよりも、いくぶん硬派な語感を帯びます。文脈の雰囲気に応じて使い分けると良いでしょう。
「得る」の使用例②
- 私が話し得ることはすべて伝えた。
- ここはいったん退却せざるを得ない。
- あまりに滑稽で、苦笑を禁じ得なかった。
「得る」の読み方
ところで、この「得る」の「得」はなんと読むでしょうか。「得ない」、「得た」、「得れば」、「得ろ」という場合(つまり、未然形、連用形、仮定形、命令形のとき)にはあまり迷うことはないでしょう。「え」と読みます。
一方、終止形、あるいは「とき」などの体言につづく連体形の場合には、意見が分かれるかもしれません。「え」と読む人もいるでしょうし、「う」と読む人もいるでしょう。また文脈によって読み分ける場合もあることでしょう。
では、「得る」を「える」と読むのと「うる」と読むのとでは、どちらが正しいのでしょうか。
結論から言えば、どちらも正しいのです。ただ、しいて言えば、「うる」という読み方の方が若干古風な雰囲気を醸し出すかもしれません。
文語の「得」
なぜ「うる」の方が古風かというと、この読み方が文語(古文での言葉づかい)の読み方に近いからです。「得る」という単語に当たる文語は「得」です。これは、この一文字で「う」と読みます。
少し古典文法の話に入ってしまいますが、「得」は下二段活用の動詞で、未然形「え(ず)」、連用形「え(たり)」、終止形「う」、連体形「うる(とき)」、已然形「うれ(ども)」、命令形「えよ」と活用していきます。
口語(現代語)で「得る」を「うる」と読むのは、この文語「得」の連体形が現代まで残ったものなのです。「得る」の古来の形に近い読み方なので、語感としては古風だというわけです。
「え…ず」と「得る」の関係
ところで、文語には「~できない」という意味を持つ「え…ず」という言い回しがあります。例えば、「え言はず」は「言うことができない」という意味になります。このように「え」と「ず」の間に動詞の未然形をはさむ形で用います。
この言い回しを作る「え」は、動詞「得」から派生したものなのです。口語では「言い得ない」という風に、動詞の後に「得る」を置きますが、文語における同様の表現では、動詞の前に「得」を置いていたというわけです。
関西弁の「よう…せん」と「得る」の関係
ちなみに、関西地方で、「よう…せん(しない)」という言い回しがあります。たとえば、「そんなこと言えない」という意味で「そんなん、よう言わんわ」と言うことがあります。
この「よう言わん」の「よう」は、今述べた「え」に由来するのです。関西弁では「よく(良く・善く・能く)」も「よう」と発音するので、「よう…せん」の「よう」はそちらと関係しているようにも見えますが、実は「得る」とつながっていたんですね。