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「虎穴に入らずんば虎子を得ず」とは?
「こけつにいらずんばこじをえず」と読みます。「入(い)らずんば」を「はいらずんば」と読み間違える方が多いのでご注意ください。また、同じ意味・由来の言葉に「虎穴虎子(こけつこし)」という四字熟語があります。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の意味
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」とは、危険や冒険を冒さなければ大きな成功や利益は得られないということのたとえです。虎の子を得るためには、虎の住む洞穴に入らなくてはならないところからきています。
実際の野生の虎も、岩の穴・藪・木の下にある巣穴で1回の出産で2~4頭の赤ちゃん虎を出産して育てるので、野生の虎の子を得るためには虎の巣穴に入る必要があります。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の由来
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」は、中国の歴史書『後漢書(ごかんじょ)』の『班超伝(はんちょうでん)』に記載されている逸話に由来があります。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の逸話
漢の軍人であった班超は鄯善(ぜんぜん)国に使者として向かい、初めは歓迎されもてなされていました。しかし、次第に冷遇されるようになり不審に思い調べてみると、敵国である匈奴(きょうど)の大軍が同じく使者として鄯善に滞在していたのです。
そして鄯善国の王は、それまで漢と匈奴のどちらの国の属国になるか迷っていましたが、大軍で来ている匈奴のほうに心が傾いているようだということもわかりました。その状況に、このままでは殺されると怯える部下たちに、班超は次のように言いました。
危険を冒さなければ、大きな成果は得られない。さしあたっての作戦は、闇夜に乗じて匈奴の宿舎に火を放つことだけだ。敵に我が軍の兵力を知られないようにすれば、必ず敵を震え上がらせ恐怖のどん底に突き落とし、滅ぼし尽すことが出来るだろう。そして、この匈奴の使者を滅ぼせば鄯善は恐れおののいて降伏し、我らは功績を挙げられるだろう。
その言葉通り、班超たちは百名以上の匈奴の軍の宿舎に半分以下の人数で夜襲をかけ火を放ち、慌てふためいて逃げ惑う匈奴の軍を全滅させました。翌日、鄯善国の王の前に匈奴の使者の生首を差し出すと、鄯善国の王は恐怖に怯え漢に服従することに決めました。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の使い方
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」は、目的を達成するためにリスクを背負う必要がある時に、危険を避けていては大きな成果や利益を得ることができないと、自分を勇気づけたり、周りを説得するために使います。例文を見てみましょう。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の例文
- 「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と言うように、安定した収入が約束されている職場を捨てて将来の保証がなくなったとしても、自分のやりたい仕事ができるベンチャー企業への転職を切に希望する。
- 危険を冒してでもハイリターンを希望するなら、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」で、新興国の株式を購入することをお勧めします。
- 「虎穴に入らずんば虎子を得ず」だ。取って食われるわけじゃないんだから、彼女のご両親に思い切って結婚の挨拶に行こう!
- 昨今の度重なる誘拐や拉致事件の影響を受けて、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の精神で紛争地域に取材に行くジャーナリストは貴重な存在になりつつある。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の引用
『白峰の麓』:大下藤次郎
『謎の女』:平林初之輔
※青空文庫出典
「虎」の「子」にまつわる言葉
「虎」の「子」にまつわる言葉をご紹介します。
- 虎の子(とらのこ)/意味:大切なもの、貴重なもののたとえ。虎は自分の子どもを大切にすると信じられているところから。
- 虎の子渡し(とらのこわたし)/意味:生活が苦しく生計のやりくりに四苦八苦している様子。虎が子を三匹産むと、必ず一匹がヒョウのように獰猛で他の子を襲ってしまうので、母虎が川を渡るときに獰猛な一匹と他の子を2匹だけにしないように苦慮するところから。
- 虎子地に落ちて牛を食らうの気あり(こしちにおちてうしをくらうのきあり)/意味:その人物の気質というものは、幼いころから出始めるということのたとえ。虎の子は生まれてすぐに牛を食らうほどの激しい気性をもって生まれてくるというところから。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」のまとめ
野生の虎は子供の虎をとても大切に育てるので、子虎が危険を知らせる鳴き声を上げればすぐに駆け付けます。麻酔銃などの安全を確保する道具がなかった時代に虎の子を狩るということは、かなりハイリスクな行為でしたが、命を危険にさらしてまでも虎の子を手に入れたいと思うほど、昔の中国では虎は貴重な存在だったようです。
現代社会に生きる私たちが命を懸けるということはあまり穏やかではありませんが、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と言うように、ここぞという時には思い切って冒険をする勇気が必要なのかもしれませんね。