「範疇」とは?
「範疇(はんちゅう)」とは、同じような性質であるものが属している部類や範囲のことを指す言葉です。
なお、哲学用語における「範疇」については、後ほど詳しく解説します。
「範疇」の使い方
- 社員からアルバイトの学生に新しい業務が命じられたが、それは普通はアルバイトの業務の範疇には入らないように思う。
- 彼女のクラシック音楽に対する知識はたいへん深く、すでに趣味の範疇を超えている。
- 失敗をした部下を上司が激しく叱っていたが、あの言い方は明らかに叱責の範疇を逸脱している。
「範疇」の由来と字について
由来
「範疇」という言葉の由来は、中国古代の歴史書で、儒教の経典でもある『書経』の洪範編にある、次の言葉です。
「天乃ち禹に洪範九疇を錫 (たま) う:天帝は禹(う:中国古代の帝)に、洪範九疇(天地の大法)を授けた」
「洪範」は手本になるような大いなる規範のことを言い、「九疇」は、政治や道徳の9つの原則である「五行(ごぎょう)・五事(ごじ)・八政・五紀・皇極(こうきょく)・三徳(さんとく)・稽疑(けいぎ)・庶徴(しょちょう)・五福」のことを指します。
「疇」とは?
「疇」は、田や畑の畝や、畝によって区切られた田や畑の領域のことを表します。また、仲間や同類といった意味もあり、上に紹介した「九疇」ではこの「類(たぐい)」という意味で使われています。
「疇」は大学・一般レベルの漢字で、漢字検定一級の漢字に該当します。音読みは「チュウ・ジュウ」、訓読みは「うね、さき(に)、たぐい、だれ、むかし、むく(いる)」です。
哲学の用語の「範疇」
哲学の用語で「範疇」という言葉があります。ドイツ語の「Kategorie:カテゴリー」に対して、明治時代の日本の哲学者で、東京帝国大学の名誉教授でもあった井上哲次郎(いのうえてつじろう、1856~1944)があてた訳とされています。(※西周説もあり)
哲学における「範疇」は、さまざまな事象を可能な限り分類し、その段階で事象を包括するところのもっとも基本的で一般的な概念のことを言います。
アリストテレスの哲学における「範疇」
アリストテレス(Aristotelēs、紀元前384~紀元前322)は古代ギリシアの哲学者で、同じく古代ギリシアの哲学者であるプラトンの弟子に当たる人物です。プラトンはソクラテスの弟子に当たります。
アリストテレスの哲学においては、「範疇」はさまざまな存在者を包括する最高類概念として位置づけられ、具体的には、次の10の項目を指します。
- 実体
- 量
- 質
- 関係
- 場所
- 時間
- 位置
- 状態
- 能動
- 受動
カントの哲学における「範疇」
カント(Immanuel Kant、1724~1804)はドイツの哲学者で、『純粋理性批判』などの著書を残しています。
カントの哲学においては、「範疇」は純粋理性批判(理念)から区別された純粋悟性概念として位置づけられ、次の4項12目から構成されています。
- 量(単一性、数多性、総体性)
- 質(実在性、否定性、制限性)
- 関係(付属性ー自存性、原因性ー依存性、相互性)
- 様相(可能性ー不可能性、現存在ー非存在、必然性ー偶然性)
「範疇」と「範囲」の違い
「範疇」に似た言葉に、「範囲」があります。同じような文脈で使われることもある二つの言葉ですが、微妙にニュアンスが異なります。
「範囲」は、その中に含むものの性質とはかかわりなく、広さや時間などの一定の限られた広がりのことを表します。「半径5kmの範囲の中で」、「できる範囲で構わないので」などのように使われます。
それに対して、「範疇」は「同じ性質のものが集まった」範囲のことを指しています。そのため、「範囲」より「範疇」のほうがより細かい枠組みであるということになります。
「範疇」英語での表現
「範疇」を英語で表すときには、一般的に「category:種類、カテゴリー、範疇」という言葉が使われます。
【例文】
The work is out of my category.(その業務は私の仕事の範疇ではない。)
その他にも、次のような言葉も使われます。
- class:分野、種類
- sort:種類、分類