「従事」とは
「従事(じゅうじ)」とは、特定の仕事に就いて、それに携わることです。しかし、仕事以外のことでも、そのことに関係して携わることも「従事」と言います。「従事」は、事に従うということです。この点について、漢字の成り立ちや字義から見ていきます。
なお、紀元前9世紀から7世紀にかけて作られた詩を集めた中国最古の詩集『詩経』には、「従事」という言葉が使われており、「事に従う」と訳されています。また、中国の漢代には、刺史(しし/州の長官)を補佐する「治中従事史」などの官職が設置されています。
「従」と「事」の成り立ちや字義
「従」は、「從」が省略された教育漢字です。「從」は、足を表す「止」・十字路の左半分を表して、道を行くという意味の「彳」・人の後ろに人が従ったさまを表す「从」からできています。そこから、したがうという意味になり、さらに、仕事につくという意味に転じています。
「事」の成り立ちは諸説あります。一つは、役人を表す「吏」と手を表す「ヨ」からなり、役人が計算に使う竹棒を筒に立てるさまの象形で、その後、仕事や仕えるという意味に転じています。
また、別の説では、神に対する祈りの言葉を書きつけたものを木の枝に結びつけて、それを手に持っている様子を表し、それが転じて、仕事や仕えるという意味になったとするものです。
「従事」の使い方
上記のように「従事」は、事に従う(=仕事に就く)ことですが、「従事」する仕事には、有償無償の区別はありませんし、仕事以外のことに携わる時にも「従事」が使えますので、分けて例文をご紹介します。
「例文1:仕事に携わる」
- 私は、長年、消防職員として、火災時の消火や救助活動に従事してきました。
- 入社以来ずっと医薬品開発の仕事に従事してきたが、来期は営業に異動になることが決まっている。
- 職場結婚した妻は、出産を機に退職し、今は家事育児に従事していますが、いずれまた働きたいと言っています。
「例文2:仕事以外のことに携わる」
- 彼は、大学時代、被災地のボランティア活動に従事していたそうだ。
- 息子は大学卒業後、就職せずに政治活動に従事し、コンビニのアルバイトでかつかつの生活している。
「従事」の類語
「従業」
「従業(ぎゅうぎょう)」は、業務(仕事)に携わることです。「業務」は、継続して仕事をすることです。仕事に携わるという点では、「従業」と「従事」は、基本的に同義の言葉と言えます。
「従事」と「従業」の区別は、業種や契約関係によって異なりますが、明確な基準はないようです。よく見聞きする例では、医療従事者や農業従事者などでは「従事」を使い、社員・店員・行員などを従業者(従業員)というように、「従業」を使っています。
【例文】
- すみません。そこは従業員専用通路なので、お客様はあちらの通路をご利用ください。
- 総務省の統計データによると従業者の高齢化が最も進んでいるのは○○県だ。
「就業」
「就業(しゅうぎょう)」は、一日の仕事に就く(仕事を始める)ことという意味と、一定の職業を持っていることという意味があります。職業を持っている、つまり、携わっているという点で「従事」の類語と言えます。
よく似た言葉に「就労(しゅうろう)」があります。「就業」と同じような意味を持っていますが、「就業」との関係では、職業としての業務(仕事)に就くのが「就業」、一定の賃金を得るためにパートやアルバイトで労働に就くのが「就労」という違いがあります。
【例文】
- プロ野球選手は、基本的に年俸制で就業している労働者です。
- 有名な観光地では、人力車の車夫として就業している者も多い。
「服務」
「服務(ふくむ)」は、務め(仕事や任務・義務など)に服することです。「服する」には、仕事に就く、従事するという意味があり、「服務」も「従事」の類語と言えます。
ただ、一般的には、勤務や就業、従事などが使われることが多く、「服務」は、公務を行うことや法律等の用語(服務規律など)で使われることが多い言葉です。
【例文】
- 自衛隊員の兄は、海外に派遣され、紛争地の警備に1年間服務しました。
- 新たに職員となった一般職の国家公務員は、その職務に従事する前に服務の宣誓をしなければならないと政令で定められている。