「胸算用」とは
「胸算用(むなざんよう)」とは、心の中であれこれとと見積もりをしたり、計画を立てることです。(むねさんよう)と濁点がつかない読み方もあります。また、江戸時代中期ごろまでは、(むねざんよう)という読み方をされていたようです。
「胸」は、「胸の内」というように心の中で考えていることを指します。また「算用」は、計算すること、収支を決算すること、見積もりを立てることといった意味の言葉です。ここから「胸算用」は上記のような意味を持った言葉として使われています。
つまり、「胸算用」とは、心の中で立てる大雑把な計画や見積もりのことです。電卓やパソコンソフト(昔はそろばん)で正確な数字を見積もる前におおよそのプランや心づもりを立てるということになります。
「胸算用」の使い方
「胸算用」は、正確なものではありませんから、計画のアウトラインを考えたり、過去の実績などからある程度の予測を立てたりするときに使われます。
例文
- 今月は結構契約が取れたので、会社への帰り道に来月の歩合を胸算用した。
- 有名な演奏家との契約が成立し、さっそく公演収入の胸算用をしてみた。
- A候補の選挙参謀は、これまでの選挙運動での手ごたえから当選確実との胸算用を弾いた。
- ボーナスを当て込んで新車を契約したのに、胸算用が外れて頭金が足りなくなってしまった。
井原西鶴の「世間胸算用」
井原西鶴をご存じでしょうか。『好色一代男』や『日本永代蔵』などは歴史の教科書にも出ているので名前ぐらいは覚えておられる方もあるかもしれませんね。
井原西鶴は江戸時代前期の俳諧師にして、浮世草子の作者です。彼の作品の1つに「世間胸算用(せけんむねさんよう)』という話があります。
ある年の大晦日の一日を描いた20章の短編集で、掛け売り(ツケ)の代金を集金する商人と支払いを免れようとする町人たちの様々な駆け引き(居留守、家人の入れ替わり、けんかの吹っ掛けなどに対する商人の対処)の様子が、ユーモアと哀愁たっぷりに描かれています。
この作品では、当時の町民(庶民)の厳しい現実生活と人間模様が描かれていますが、人それぞれの胸算用と現実のギャップがひしひしと伝わってきます。
「胸算用」の類語
「皮算用」
「皮算用(かわざんよう)」は、「取らぬ狸の皮算用〈狸をとる前から皮を売ることを考えること〉」の略で、物事が実現することを前提に計画を立てることです。
「胸算用」は、過去の実績や将来の見込みなどを踏まえてすることが多いのですが、「皮算用」は、むしろ未来の結果に対する期待に重点がある言葉と言えるでしょう。
【例文】
- あいつは、デイトレードで一日3万円儲けたら、月に60万以上の収入になるんだって言うけど、そんなの取らぬ狸の皮算用だよ。
- 彼は、宝くじが当たったらタワーマンションを買うという皮算用をしているらしい。
「見積り」
「見積り(みつもり)」は、事前におおよその計算をすること、その計算ということです。この言葉は、物の数量などを目で見てだいたいの予測をするところからきています。
家を建てたり、自動車を買った経験のある人は、複数の見積書を比較して予算や希望に合うかどうか検討したことがあるのではないでしょうか。
【例文】
- リフォーム工事で予想以上に家の痛みがひどかったので、見積りよりも多くの費用が掛かってしまった。
- 新商品開発に伴い、コストや採算の見積りを出すよう上から指示があった。
「推計」
「推計(すいけい)」は、ある程度の事実や資料をもとにして、おおよその計算結果を出すことです。「胸算用」は、将来への期待が入っていますが、統計などで使われる「推計」には、希望的観測は入っていません。
【例文】
- この間の大規模災害の損害額推計が発表された。
- 内閣府の平成30年版高齢社会白書によると、日本の推計人口は2053年には1億人を下回るらしい。