「心を砕く」とは?
「心を砕く」(こころをくだく)という言葉、字面からそのまま解釈すると、「誰かの心を打ちこわしている」「心をくじいている」という意味が浮かんできそうですが、そうではありません。
「心を砕く」のは自分自身(主語となる人物)であり、何らかの物事や人物のために、自分の心を砕いてしまうほどに「気を揉む」「胸を痛める」「苦心する」「気を配る」というのがこの言葉の意味です。
しかし、いかに対象が自分の心だとしても「砕く」という言葉はかなり乱暴という印象があるかもしれません。少し深めて解説しておきましょう。
「砕く」について
「砕」の字は、「石うすで引きくだく」意であり、すなわち「砕く」は「打ちこわしてこなごなする」「敵を打ち破る」「(気力などを)くじく、弱める」などの破壊的な意味を多く持っています。
「心を砕く」という場合は、ひとつしかない心が砕けてばらばらになりそうになるほどの不安・心配事、およびそれにまつわる労力などを意味すると考えればよいでしょう。
なお、砕くのは心だけではなく、「砕身」(さいしん:身を砕くほど苦労する)という言葉もあります。「粉骨砕身」(ふんこつさいしん:力の限り努力すること)という四字熟語も知られていますね。
「心を砕く」の使い方
「心を砕く」は、基本的には何らかの物事について「心を使って苦労すること」を指して使います。特に、心配事や気苦労のことを指す場合が多くみられます。
ただし、物理的に心を砕くことは不可能であり、「心」そのものが多義語です。そのため、特段の苦労を伴わずとも「注意を向けている」「配慮する」「集中する」「努力する」といったニュアンスで「心を砕く」と言われることもあります。
そもそもが比喩的な表現であることを考慮すれば、「心が砕けそうだ」と主観的に言えるものであれば、幅広い心理的作用にこの表現をあてはめることができるといえるでしょう。
例文
- その母親は、25歳を過ぎてろくな職につかず放蕩しているひとり息子の今後について心を砕いていた。
- 太郎は、何とか彼女の気を引こうと毎日ひたすらに心を砕き、ついには精神のバランスを崩した。
- 〇〇大臣は口だけは立派だが、公言した内容を実行に移すべく心を砕いていたかといえば、そんなこともないだろう。
- 殿下は、前代未聞の不作のために飢餓(きが)にあえいでいる市民らの窮状に心を砕かれている。
「心を砕く」の類語表現
「腐心」
「腐心」(ふしん)とは、「(あることを実現しようとして)心を痛め、悩ますこと、苦心」という意味の言葉です。「心を腐らせる」と書くところが「心を砕く」と似ていますね。
【例文】
- 彼はとにかく奇を衒(てら)った発言をしようといつも腐心している。
- 人を使う立場になった者は、誰でも信頼が置ける部下探しに腐心する。
「肝胆を砕く」
「肝胆」(かんたん)とは肝(きも)と胆(い)のことで、主要な臓器であることから転じて「心、心の底」を意味します。それを「砕く」わけですから、「心を砕く」に通じて「心労の限りをつくす」の意味であることがわかりますね。
なお、「砕く」の他にも「肝胆相照らす」(かんたんあいてらす:心の底まで打ち明けて親しく交わる)といった表現があります。
【例文】
- 災害のあと、彼は何とか店の経営を立て直そうと肝胆を砕いたが、結局はうまくいかなかった。
- 彼は肝胆を砕いて作戦を一夜で練り上げた。
「骨を折る」
「骨を折る」とは、文字通りの怪我としての骨折という意味もありますが、慣用表現として「苦労する、苦心する、精を出して働く」という意味があります。同様に「骨を砕く」という言葉もあります。
【例文】
- 彼女ときたら、あこがれの航空業界に就職するために、ずいぶん骨を折ったものだ。
- 小学生に最新物理学の研究をわかりやすく説明するのは骨が折れる。