「稀代」とは
「稀代」の読み方はもともとは<キタイ>ですが、現在では<キダイ>の読み方も可とされています。どちらの読み方でも、アクセントは「喜劇」のように1音目に置くか、「希ガス」のように2音目に置きます。
「稀代」とは、「世にもまれなこと」あるいは「大変変わっていること」という意味ですが、前者の意味で用いられることが多いようです。「希代」と表記されることもあります。
「稀」の字義
「稀」は、音読みでは<キ>、訓読みでは<うす(い)・まば(ら)・まれ>と読みます。「薄い・まばらで少ない」や「めったにない・珍しい」といった意味がありますが、「稀代」の場合は後者です。
「代」の字義
「代」は、音読みでは<タイ・ダイ>、訓読みでは<か(える)・か(わる)・よ・しろ>と読みます。「代」の字義は複数ありますが、「稀代」の場合は「時代・人間の一生の間」といった意味です。
「稀代」の使い方
「稀代」は、おもに、「稀代の名工」や「稀代の銘刀」のように名詞を修飾します。例に挙げた通り、人に対しても、物事に対しても使われる言葉です。また、良し悪しに関わらず使われるので、「稀代の英雄」や「稀代の悪党」のようにも用いられます。
【使用例】
- 褒美として稀代の酒を賜った。
- この小説は稀代の犯罪を題材としている。
- 彼女は世界中で活躍する稀代のエンターテイナーだ。
- 彼は稀代の放蕩者と言われている。
「稀代」の類語
「絶世」
「絶世(ぜっせい)」は世にまたとないほど優れていること・並外れて優れていることを表します。珍しさの度合いは「稀代」と同じ、または上かもしれません。ただし、良し悪しを問わずに用いられる「稀代」と違い、「絶世」は良いことに対してのみ用いられます。
「非凡」
「非凡(ひぼん)」とは、普通よりも特に優れていることを指す言葉です。めったにないという点においては「稀代」に通じますが、珍しさの度合いは「稀代」の方が上でしょう。
「不世出」
「不世出(ふせいしゅつ)」とは、まれにしか世に現れないくらい優れているという意味です。珍しさの度合いにおいて、「稀代」と同じくらいと言えそうですね。しかし、「不世出」は良いことに対してしか使われない点では、「稀代」と異なっています。
「レア」
「レア」は英語の「rare」に由来する言葉です。レア物、レアアイテム、レアケース、超レア、激レアなど、日常的にも用いられていますね。
「rare」には生焼きという意味もありますが、珍しいことという意味もあります。後者は「稀代」に類する言葉ですが、珍しさの度合いは低いでしょう。
「稀代」の用例
『走れメロス』
太宰治『走れメロス』
引用した場面は、メロスが激流から這い上がり、山賊を打ち倒したものの、帰路で力尽きて倒れてしまったところ。王はメロスは戻るとは思っていないわけですから、全く信用されていない人=メロスです。ここでは、信用されていないことを強調して「稀代の」と表現しています。
『黄金豹』
江戸川乱歩『黄金豹』
引用したのは作品の結びの一文です。『黄金豹』は明智小五郎と怪盗二十面相との戦いを描いたシリーズの一つ。明智の前に何度となく立ちふさがる二十面相は、比類なき怪盗というわけですね。