「一抹」の意味
「一抹(いちまつ)」とは、「ほんのわずか」、「ごくわずか」を意味する言葉です。もともとは「絵筆でひとなすり」した程度の量という意味でしたが、これが転じて「ほんのわずか」を意味する言葉となりました。
「一抹」の使い方
「一抹」の使い方ですが、気をつけるべきなのが「ネガティブ」な文脈で用いるという点です。たとえば「一抹の不安」や「一抹の寂しさ」のように、一抹の後にはネガティブな要素を含む言葉を続けます。
まれに「一抹の希望」と表記している文章を見かけますが、「希望」はポジティブな意味を持つ言葉ですから、これは誤りです。この場合は後述する「一縷(いちる)」を用いて「一縷の望み」とするのが正しいです。
一抹の不安
「一抹の不安」は、「一抹」を用いた言葉のなかでも、かなり使用頻度の高い表現です。「ほんの少しだけ解消されずに残っている不安」という意味で使います。
一抹の寂しさ
「一抹の寂しさ(いちまつのさびしさ)」も、「一抹」を用いた表現としてよく使われています。「ほんのわずかな寂しさ」を意味しており、「一抹の寂しさを覚える」「一抹の寂しさが残る」のように使います。
「一抹」の例文・使用例
- 皆は完璧な仕上がりだと喜んでいたが、それでも彼の脳裏には一抹の不安が残っていた。
- 盛者必衰の理(じょうしゃひっすいのことわり)とはよく言うが、それでも、あれほど栄えていた家が滅びてしまったことに、私としては一抹の寂しさを覚える。
- モクモクと排出されたガスは広い大空に拡散し、やがて一抹の薄い煙となって消えてしまった。
「抹」の字義
「一抹」という表現を知るうえで、字の意味や成り立ちを知ることは重要です。「抹」という字には以下の意味があります。
- さっとなする。こすりつける。
- 塗りつぶす。
- すりつぶして粉にする。
「一抹」で使われているのは1の意味です。なお、3の「すりつぶして粉にする」は、「抹茶(まっちゃ)」や「抹香(まっこう)」などで使われています。
「一抹」の類語
一縷
「一縷(いちる)」とは、以下の意味を持つ言葉です。
- 一本の糸。また、そのように細いもの。
- ごくわずかであること。ひとすじ。
もともとは1の意味のように「糸のように細いもの」を表していました。これが転じて2の「ごくわずかであること」という意味でも使われるようになりました。
なお2の意味で使われる場合は、「一縷の望み」や「一縷の希望」に代表されるように、「一縷」の後にはポジティブな言葉が続きます。
【使用例】
- 逆転勝利に向けて、監督は彼に一縷の望みを託した。
- 一縷の希望にかけて、目の前の戦いに挑む。
一毫
「一毫(いちごう)」とは、以下の意味を持つ言葉です。
- 一本の細い毛筋。転じて、わずかなもの。
- 長さの単位。一厘の十分の一。
「毫」という字には、「きわめて細い毛」や「筆の穂先」という意味があります。また「一毫」が使われている表現として、きわめてわずかであることを表す「一糸一毫(いっしいちごう)」があります。
【使用例】
- 期限までに終わる兆しが一毫もないほど厳しい。
- 彼の方針は、あの時から一毫たりとも変わったところが無い。
一掬
「一掬(いっきく)」とは、以下の意味を持つ言葉です。
- 両手でひとすくいすること。ひとすくい。
- わずか。ほんの少し。
もともとは1のように、水などを「両手でひとすくいすること」を指していましたが、これが転じて2の「わずか。ほんの少し」といった意味でも使われるようになりました。
なお「一掬」を用いた表現として「一掬の涙(いっきくのなみだ)」があります。この言葉は「(両手でひとすくいできるほどの)たくさんの涙」または「ほんのわずかな涙」という意味で使われています。どちらの意味で使われているかは、文脈によって判断することが必要です。
【使用例】
- 凛々しく立ち振る舞う彼女の瞳には、一掬の涙もなかった。