「一縷」とは?
「一縷(いちる)」の「一」には、「ひとつ」という意味や、少ない数を表すことから派生した「少しの」や「わずかな」という意味があります。
他方、「縷」は「糸」を指すことから、「糸のように細く長いもの」の比喩として使うこともあります。また、糸を意味することから派生して、「細かいこと」や糸がたくさん出ているような「ぼろ布」などをも意味するようになりました。
「一縷」について、3つの項目に分けて意味と使い方を紹介します。
「一縷」の詳しい意味と使い方
一本の糸
「一縷」は、元々、「一本の糸」を指す言葉ですが、現在ではこの意味で用いるケースは少ないようです。
【使用例】
- 芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を読んで思ったのだが、よく一縷の糸にぶら下がって極楽に行こうと考えたな。
- 失恋した友人が「運命の赤い糸は一縷の糸なのかな」とつぶやき、何と答えていいか困った。
一本の糸のような
「一縷」は、元々の意味から、「一本の糸のような」というかなり細く長いものを指す比喩として用いられる場合もあります。
【使用例】
- 暗闇の中に、扉のすき間から一縷の光が差し込んできた。
- お彼岸の時期にお墓参りをして、線香を上げたら一縷の煙が立ち上った。
ごくわずか・かすかな
「一縷」は、元々の「一本の糸」から派生して、「ごくわずか」や「かすかな」という意味も表すようになりました。現在では、この意味で用いるケースが一般的でしょう。
「一縷の望み」(わずかではあっても望みをかける)・「一縷の期待」(少しではあるが期待する気持ち)・「一縷の希望」(可能性がわずかであっても望みが叶うようにと願う気持ち)という使い方をします。
【使用例】
- 最後に出場する選手に、団体のメダルへ一縷の望みを託した。
- まだ若いA君には荷が重いかもしれないが、一縷の期待をしている。
- 増員した捜索隊が彼を発見してくれることに、一縷の希望が残されている。
「一縷」の類語
糸や糸のようなという意味の類語
「糸筋(いとすじ)」は、糸そのものを指したり、糸のように細く長いものを比喩する言葉です。また、物事の経過を表す筋道や三味線の弦などを表すこともあります。糸や一本の糸のようなという意味では、「一縷」の類語に当たるでしょう。
【使用例】
- 糸筋が細すぎてボタン付けに適していない。
- 涙が糸筋のように頬を伝って流れた。
ごくわずか・かすかなという意味の類語
「一掬(いっきく)」には、水のようなものを両手で一掬い(ひとすくい)するという意味と、わずか、ほんの少しといった意味があります。
糸状と液状という形状の違いの違いはありますが、「ひとつの○○」を指す時と「わずかな○○」を表す時があるという点でも、「一縷」と似た言葉と言えるでしょう。
【使用例】
- 悲しみを乗り越えて心を決めた彼の目には、一掬の涙もなかった。
- いつも厳しい監督にも一掬の情けはあるらしい。
- 私は彼女に一掬の同情を感じていた。
「一縷」と「一抹」の違い
「一縷」も「一抹」も、ごくわずかなことを指す言葉ですが、使い方に差があります。
「一抹」とは
「抹」には、塗料や絵の具をハケや絵筆でなすりつける、すりつけるなどの意味があります。したがって、「一抹」は、ひとはけ、ひとなすりという原義から、ほんの少し、ごくわずかなどの意味が派生したと考えられています。
「一抹の不安」(何となく良くないことが起こるのではと心配になる)・「一抹の疑い」(いまいち信用できない感じがする)・「一抹の寂しさ」(少し孤独な思いが身に染みる)などの用法が一般的です。
【使用例】
- 夫が浮気しているのではと、一抹の不安が頭をよぎった。
- 彼への一抹の疑いが湧いたが、周囲からは考えすぎと言われた。
- 自分だけ同級生の結婚式に呼ばれなかったとSNSで知り、一抹の寂しさを感じた。
「一縷」と「一抹」
「一縷」は、使用例に挙げたように、多くの場合、「望み」・「希望」・「期待」など、たった少しの可能性であっても前向きであろうとする気持ちが感じられる言葉と結びつきます。
他方、「一抹」は「不安」・「疑い」・「寂しさ」などネガティブな感情と結びつくことが多く、「望み」や「希望」といった言葉と結びつくことはないようです。
単語の意味だけを考えると「一抹の希望」という表現もありそうですが、上記からもわかるように、「一縷の希望」とするのがよいのでしょう。