「面々」とは
『堀の中の懲りない面々』という作品があります。刑務所での懲役囚たちの生活を描いた安部譲二の自伝的小説で、映画化、ドラマ化もされた作品です。このタイトルは1987年の新語・流行語大賞にも選ばれました。
この「面々(めんめん)」とは、「それぞれの人」、「めいめい(銘々)」という意味です。各自、各人とも言い換えられますね。
「面々」の使い方
「面々」は名詞として、ある集団の中のひとりひとりというニュアンスで、次のように用いられます。
【使用例】
- 呼び出された面々は、不思議に思って顔を見合わせた。
- 委員会に選出された面々は互いに顔見知りだった。
- 来賓者には、いわくありげな面々も混じっている。
- 重役の面々が立ち並んで会長を出迎えている。
- 突然の監督解任の知らせに、チームの面々も戸惑っていた。
「面々」には、呼びかけとしての代名詞的な用法もあります。この場合は、対等、もしくは目下の人に対して使用するので、目上の人に使うことはできません。
【使用例】
- OK:「共に学んだ面々と元気に再会できて喜ばしく思います。」
- NG:「恩師の面々もお元気そうで何よりと存じます。」→正しい表現は「恩師の方々」など。
「面々」と「顔ぶれ」
「顔ぶれ」とは
「面々」と似た言葉に「顔ぶれ」という言葉があります。「顔ぶれ」は、会合・事業などに参加する人々、つまり、メンバーという意味です。
【使用例】
- 全国大会出場枠を勝ち取る顔ぶれはどうなるだろう?
- 長者番付トップ10の顔ぶれはここ何年も変わらない。
- 今月の歌舞伎座の主な顔ぶれをご紹介します。
- これでようやく予定の顔ぶれがそろった。
- 委員の顔ぶれを見れば会議の方向が見えてくると言われる。
「面々」と「顔ぶれ」との違い
「面々」と「顔ぶれ」を例文を使って比較してみましょう。
- 彼はその場に集まった面々を見回した。
- 彼はその場に集まった顔ぶれを見回した。
「面々」はあるグループ内のそれぞれの人々を指しますから、1は「誰と誰が集まっているのか確認した」「一人一人の表情を見た」という意味合いです。
対して、「顔ぶれ」はあるグループ全体という意味なので、2は「どういったタイプの人たちが集まったのか観察した」「全体を見渡した」といったニュアンスです。
「錚々たる面々」と「錚々たる顔ぶれ」
「面々」も「顔ぶれ」も、傑出しているという意味の「錚々たる(そうそうたる)」と組み合わせて使うことがあります。「錚々たる面々」は「一人一人」が優れている点、「錚々たる顔ぶれ」は優秀な人たちが「揃っている」点に重きを置いた表現と言えます。
「面々」と「顔ぶれ」の英語表現
また、「面々」は英語で'each person'や'everyone'(だれもかれも)、「顔ぶれ」は'lineup'(人員・陣容)と表現できることからもその違いが分かるでしょう。
「面々」を含むことわざ・俳句
「面々の楊貴妃」
美人の代名詞としても用いられる「楊貴妃(ようきひ)」は、中国、唐の時代の玄宗皇帝の寵愛を受けた妃です。「面々の楊貴妃」とは、それぞれが自分の妻を楊貴妃のような美人だと思っているという意味です。
人それぞれ好みがあるので、好きになると欠点も隠れて美しく見えるというたとえとして用いられます。類する表現には、「痘痕(あばた)も笑窪(えくぼ)」「蓼(たで)食う虫も好きずき」などが挙げられます。
「面々の蜂を払う」
「面々の蜂を払う」は、他人のことをあれこれ言う前に自分の欠点を反省しなければならない、他人のことをかまうより自分を省みよ、と言う戒めの言葉です。「己の頭の蝿を追え」と同じ意味です。
「あち東風や 面々さばき 柳髪」
松尾芭蕉の俳句に、「あち東風や 面々さばき 柳髪」という句があります。「東風」は春に吹く東風のことで、この場合は「こち」と読みます。「あちこち(あちらこちら)」と「東風」を掛けているわけですね。
また、「柳髪」は女性の長くしなやかな髪を柳の枝にたとえた言葉です。「りゅうはつ」の読みもありますが、ここでは「やなぎがみ」でしょう。
この句は、あちらこちらで女性たちが髪をとかしているかのように、柳がそこここで春風に揺れている様子を表しています。