「矢面」の意味①:敵と向き合っている場所
矢面(やおもて)とは、元々は、矢が飛んでくるくらいの距離感で敵と向き合っている場所という意味です。「矢」は、合戦で敵から放たれた矢、「面」は、向き合うことを表しています。
敵陣に切り込む下級武士や、戦功を上げたい武士や武将がいる場所で、敵と直に、間近に向き合う場所とも取れますね。現代では、戦いの場で弓矢を使うことはないでしょうが、戦争や紛争などで敵からの攻撃を直接受ける最前線の場所として用いられます。
【使用例】
- 大将が攻撃されるのを防ぐために下級武士が矢面で闘う。
- 攻撃を間近に受ける矢面に行くには、勇ましい人でないと難しい。
軍記物での使用例
軍記物の中で、「矢面」を使用している例が見られます。平安末期の保元の乱を扱った『保元物語』や平家の繁栄から滅亡までを扱った『平家物語』から引用してみましょう。
【保元物語『保元物語 巻之 二 白河殿へ義朝夜討ちに寄せらるる事』より】
【『平家物語第十一巻の四 那須与一』より】
「矢面」の意味②:厳しい言葉や非難を直接受ける場所や立場
敵の矢による攻撃を直接受ける場所という意味から派生して、「矢面」は、厳しい言葉や非難を直接受ける場所や立場を指すようになりました。
上司や取引先から直接叱られたり、企業や個人が謝罪会見の場で記者や被害者から、厳しくきつい言葉で質問を受けたりする状況が矢面に当たります。相手からの厳しい言葉や非難を直接受けることを、次々に放たれる矢に例えていることになりますね。
使い方
相手からの厳しい言葉に直面する場という意味では、「矢面に立つ」・「矢面に立たされる」(厳しい言葉を一身に受けることを覚悟して、代表として立ち会うこと。もしくは、職務や立場上、厳しい場面に立たされること)という慣用表現が多く見られます。
【使用例】
- 会見で社長が矢面に立って誠心誠意答えたことで、被害者が歩み寄りの姿勢を見せてくれた。
- 部下の失敗をかばい、自ら矢面に立つ上司は信頼される。
- 苦情受付担当者は、いつでも矢面に立たされる。
「矢面」の類語
「矢面」の類語表現をご紹介します。これらの言葉は、戦争や紛争だけではなく、「言葉や非難を直接浴びる場所・立場」の意味でも使われることがあります。
陣頭
「陣頭」(じんとう)は、軍勢の先頭に当たる所、戦陣の一番前で敵と相対する場所という意味です。転じて、仕事や何らかの活動などで中心になっている人や部署を指す場合もあります。
「陣頭」を、「じんがしら」と読むと、その軍勢のリーダーを指しますので、読み方に注意してください。
【文例】
- 陣頭で指揮を執り見事に勝利した。
- 陣頭の小競り合いがきっかけで、休戦協定が破棄された。
最前線
「最前線」(さいぜんせん)は、戦場の中で敵に一番近い所、直接敵と向かい合っている場所という意味です。企業間、国家同士などの大きな団体で、熾烈な争いを繰り広げている開発や販売などの現場という意味も派生しています。
【文例】
- 戦争の状況を伝えようと最前線に従軍する記者。
- 敗戦の軍の最前線は悲惨な状態だった。
「矢面に立つ」の類語
厳しい言葉や非難を直接受けることを言い表す「矢面に立つ」の類語表現としては、以下のような言葉が挙げられます。
吊し上げを食らう
「吊し上げを食らう」(つるしあげをくらう)とは、特定の人物やグループが、大勢の人間から激しく糾弾(罪や責任を問いただして非難すること)されるという意味です。
「吊し上げ」は、捕縛され高い所に吊るされること、「食らう」は、迷惑や災難などの困難なできごとを被るという意味です。
【文例】
- SNSでつぶやいたことが元で、有名人が吊し上げを食らうケースが多い。
- お局(つぼね)様と異なる意見を言ったら、同じ派閥の女性達から吊し上げを食らって、参った。
集中砲火
「集中砲火」とは、1つの所に的を絞って特定の人や物を砲撃する意味から派生して、特定の人や集団に対して、集中的に非難したり、批判活動をしたりすることを言います。一般的には「~を受ける・~を浴びる」など受け身の言葉を伴います。
【文例】
- いったん集中砲火を浴びると、ブログやSNSも炎上するから気をつけなくちゃ。
- あんなに人気があったタレントでも、立ち居振る舞いを間違えると集中砲火されてみんなからバッシングされるんだね。怖い世の中だ。