「詭弁」とは?
「詭弁」の意味
詭弁とは、聞き手を言いくるめるために、故意に、間違っていることや道理に合わないことを、正しいと主張する論法です。
詭弁においては、話者は、自らの論理が破綻していることを知りながら、そんなことはおくびにも出さず、その議論を進めていきます。
「詭弁」と「強弁」
「詭弁」と似通った言葉に「強弁」があります。二つを区別するポイントを挙げましょう。「詭弁」は、自身の理論の破綻や間違いを、論法の技術によって「相手を騙して押し通す」意図を強くもつ言葉です。
「強弁」は、自身の論を通したい思いの強さから、道理にあわないことでさえ「言い張ってしまう」ことですが、自身の論の誤りに気付いていないケースもあります。従って「詭弁」は、「強弁」よりも意図的であり、ずる賢さがにじみます。
「詭弁」も「強弁」も、自身の強い願望からくる行為であるため、自己宣伝や仕事における交渉、他者の説得などで用いられがちです。しかし、道理にかなわないことを押し通そうとする態度は、相手の反発を買い、かえって自身の評価を落としかねないことも理解しておくべきでしょう。
「詭弁」の使い方
「詭弁」は、多く、「詭弁である」あるいは「詭弁を弄する(ろうする)」のように用いられます。「弁が立つ」との混同して、「詭弁が立つ」と使われていることがありますが、これは誤用です。
【例文】
- 彼女の詭弁に騙されてはいけないよ。
- あなたの言っていることは詭弁です。
- 彼は詭弁を弄して望むものを手に入れた。
「詭弁」の種類と例文
「詭弁」には、実にさまざまな論法の種類があります。その例を何点か挙げてみましょう。「詭弁」と聞くと、特殊で専門的な論法だと思うかもしれませんが、例文を眺めれば、身近にありがちなこと気づくのではないでしょうか。
早まった一般化の虚偽
(男子生徒)
俺が知っている教師は、みんな視野が狭かった。だから、教師に相談したって無駄だよ
上の例のように、「自分の狭い経験に照らし、その結果が一般的なものだ」と主張する論法があります。「一般的」だと主張するには、あまりに母数が少なく、主観的な言い方で、何かを証明するには不十分です。
未知論法
(男子生徒)
君は、雪男はいないと言うが、いない証明はできないだろう?だから、雪男はいるっていうことだよ
証拠がないことを根拠に物事を証明することはできません。従って、上の例のように、「AがBでないことは証明ができない。従って、AはBだ」と主張する論法も成立しないのです。
誤った二分法
(ルームメイト)
君は、猫は嫌いではないと言ったじゃないか。それって、猫は好きっていうことだよ。早く飼おうよ!
「AはBかCのどれかだ。AがBでないなら、AはCだ」と主張する論法もあります。上の例のように好き嫌いについては「好きでも嫌いでもない」「興味がない」のような状態も考えられますので、「猫は好きか嫌いかのどちらかだ」という前提が間違いだといえます。
論点のすりかえ
(社員)
確かに、集計ミスをしたのは私だけれど、今日遅刻してきたあなたに謝る筋合いはない
上のように、論じている内容とは異なる話題をもってくることで、肝心の論点をそらす論法は、意図的に行った場合は詭弁です。しかし、話が上手でない人や、落ち着いて話せない状況にある人にも見られるので、わざとではない場合もあります。
伝統に訴える論法
(男性)
結婚したら、女は家にいるべきなんだよ。昔から「家内」っていうじゃないか
新旧が対立するときによく用いられる、伝統や、昔から言われていることは正しい、として自分の説を押し通す論法です。上の例の場合、「過去、既婚女性は家に入るのが正しいからそうなったのか」「現在、既婚女性に関する状況は変わっていないか」の二つが立証されなければ根拠にはなりません。
論点先取りの論法
(上司)
A君の優秀な頭脳なら、このプロジェクトも失敗するわけがないんだ。彼だけにまかせなさい
上の例は、現時点で得ている情報によって、先の状況や結果を断定する論法です。「優秀な頭脳の持ち主ならばプロジェクトは失敗しない」「A君は優秀な頭脳の持ち主である」という議論が不十分な二つの仮定を結びつけて結論を導いています。一見、正しそうに見えて、実は何も証明できていません。
脅迫論法
(部活の先輩)
素振り100回ができなきゃ、往復ビンタだ。ビンタをくらうっていうことは、お前がやるべきことをやらないからだぞ
「あなたがAをしないなら私はBをする。それが嫌ならAをすべき」というのは、脅しによる論法です。上の例では、「あなたには素振り100回するか、私に往復ビンタされるかの選択肢しかない。だが、あなたは素振りをしないので、故に私にビンタされるべきである」と言っているので、上記の「誤った二分法」にもなっています。
「詭弁」の英語表現
「詭弁」の英訳
「詭弁」を英語で表現するには、sophism・sophistication・sophistry、「詭弁を弄する人・詭弁家」を表すにはsophist・sophisticなどを用います。これらの単語の先頭についている「sophi-」には、「賢い」というような意味があります。
「sophist(ソフィスト)」の元来の意味
このうち、「sophist(ソフィスト)」には、古代ギリシャの知識人という意味もあります。ソフィストは、もともと、職業として得や知識を人々に教える教師でしたが、政治体系の変遷に伴って、大衆を煽動して地位を得るようになりました。
演説や弁論によって真実を伝えるよりも、詭弁や強弁で人心を得ることを優先した結果、ソフィスト=詭弁を教える詭弁家となっていったのです。
詭弁で、真実を曲げてでも自分を通すよりは、元来の「知識人」という意味に立ち返って、知恵や英知を正しく使い、伝えたいものです。