「墜落」の意味
「墜落(ついらく)」と聞くと、航空機事故を思い浮かべてしまう方が少なくないのではないでしょうか。かなりの確率で減少したとはいえ、発生率はゼロではありません。
力学的には「揚力を失くした航空機が地球の重力に抗えず地上へ引き寄せられること」を墜落といいますが、一般的には航空機のような大きなものが空から落ちることを「墜落」と表現します。
【一般的な意味】
- 高いところから(物や人が)落ちること。
- 激しく落下する(ようす)。
- 盛んだった勢いが落ちて衰えること。
「墜落」の成り立ち
墜(つい)は、「おちる」「おとす」の意味を持つ漢字です。墜の上の漢字「隊」は、「重量を持つまとまり」または「大きなまとまり」に由来しており、「一団」「集団」の意味で使われます。
その下の「土」は、いうまでもなく地面(地上)です。漢字全体では「大きな重い固まり」が地上に落ちるイメージです。ここへさらに漢字「落」を加えて、本来「落ちてはいけないもの」が(誤って)落ちることを強調します。
「墜落」の使い方と例文
- 大凧が風にあおられて墜落した。
- 爆撃を受けた戦闘機が海上に墜落した。
- 高所作業者の墜落防止に安全規約を役立てよう。
また「墜落」は、落ちることの意味から「だめになる」「おちぶれる」ことの比喩としても使われます。近代文学にその痕跡がみられます。
(宮本百合子『山本有三氏の境地』より)
(太宰治『花吹雪』より)
(寺田虎彦『春寒』より)
「墜落」とよく似た熟語
「転落」(てんらく)
乱暴にいうと、地面に叩きつけられるような落ち方が「墜落」です。これに対して「転落」は、何かの拍子に落ちることで、その「何か」とは、すべる、よろける、転げるといった不安定な動作を経たあとに顧みる間もなく落下する状態を指しています。
【用例】
- CDの売り上げランキング1位から1日で転落した。
- 児童の転落を想定して危険な箇所に貼紙をした。
- 転落人生。
高所の安全防止策を記す際には、状況に応じて「転落」「墜落」を使い分けます。
「堕落」(だらく)
「堕落」の「堕」は旧漢字では「墮」と書き、城壁がくずれる様子を表します。これに「落」をつなぐと「くずれおちる」となり、映画のワンシーンを2カットで観るような描写です。
しかしその後、堕落は城壁を離れ、「生活がくずれること」や「身をもちくずす」といった人間の生活に密着した言葉として落ち着きます。
仏教では「道をはずして悪道におちること」をいい、そこから波及して、「(物事が)本来もつ姿や価値を見失い、見る影もないようす」を表す際にも用いられています。
【用例】
- アルコール漬けの毎日が彼を堕落させた。
- 親が見ていないところで堕落した生活を送っている。
- あの出版社の最近の堕落ぶりは目にあまる。
「墜落」は、真っ逆さまに落ちる様子を表します。けれども「堕落」の場合は、そこへといたる途中にいくつかの分岐点がありそうです。
「墜」を使った熟語
「失墜」(しっつい)
「墜」の意味を知った方なら、もうお分かりのように、失墜とは「おちて失うこと」。すなわち、名誉や権威、信用を、自らの手で失うことです。じつに人間らしい言葉です。
「撃墜」(げきつい)
一般に、航空機を撃ち落とすことを「撃墜」と呼んでいます。戦闘機が空を飛ぶ以前にはなかった言葉かもしれません。
過去には民間の旅客機が他国の軍隊に撃墜される例もありました。1983年に起きた「大韓航空機撃墜事件」です。さらに2001年9月11日の「アメリカ同時多発テロ事件」では、ミサイルや弾丸を使わずに旅客機が撃墜される前例のない事態となりました。
思えば「転落」も「堕落」も「失墜」も、みなどこかに人間らしさを宿しています。ならば「撃墜」も、「イケメンのハートを撃墜する」といったような、人道的な言葉であってほしいものです。