「拝啓」の意味
「拝啓」は、手紙の文面の冒頭に記す頭語の一つです。訓読みでは「おがみもうす」。「拝」が「伏して」「おじぎして」を示し、「啓」は「申し上げる」を示します。
すなわち、手紙の宛先となる人間に、敬意を表しつつ手紙を書いている、という気持ちを伝える挨拶の言葉なのです。
「拝啓」を用いるケース
「拝啓」は謙譲や敬いの思いを伝える頭語ですので、その対象は、仕事上の相手・年上や目上などの、礼儀をつくすべき人間となります。
知人や年下、目下であっても、関係性に距離があったり、頼みごとをするなどの改まった手紙には、「拝啓」を用いたほうがよいケースもあります。
「拝啓」とペアの「敬具」
頭語に「拝啓」を用いた手紙には、文章の締めくくりに「敬具」という結語を置きます。「敬具」の訓読みは、「うやうやしくととのえる」。「敬」は「敬意をもって・うやうやしく」を示し、「具」は「詳しく申し立てる」を示します。
「拝啓」という丁寧な挨拶から始まった手紙は、このように「敬意を表しつつ、謹んで申し上げました」と伝えて結びます。また、結語には、(これで失礼します。それでは、また。)という挨拶の意味も含まれます。
「拝啓」の使い方
改まった手紙の基本的な構成と、それに添った手紙の文例(頭語は「拝啓」)を紹介します。設定は、高校の恩師に向けての教え子からの手紙です。
【基本構成】
- 頭語
- 前文(時候の挨拶、相手の安否や活躍などに触れる、相手への感謝やご無沙汰の詫びなど)
- 主文(伝えたい要件。実は、さて、などの起語から入ってゆく)
- 末文(締めくくりの文章。時候などをからめつつ、相手の健康や繁栄を祈る)
- 結語
- 日付と署名
拝啓 入梅の候、鈴木和夫先生におかれましては、益々ご健勝のことと存じます。すっかりご無沙汰してしまいましたことを、お許しください。
実は、この五月に静岡県に転居致しました。その前に鈴木先生にお目にかかりたかったのですが、急な転勤辞令で慌ただしく、かなわずに残念です。新住所、電話番号などを末尾に記させて頂きます。近くにお出向きの折には、ぜひご一報ください。富士山が美しく見える場所を見つけましたので、ご案内致したく存じます。
気温が安定しないこの頃ですが、ご自愛のうえお過ごしください。鈴木先生のさらなるご活躍を、陰ながらお祈りしております。
敬具
令和元年6月16日 山本一郎
その他の「頭語」と「結語」
「拝啓」と「敬具」の組み合わせよりも、さらに丁寧で改まったものとして、頭語「謹啓」と結語「敬白」が挙げられます。
言葉の意味は、いずれも同じでありながら、前者にくらべて「敬意の位」が上回ると位置づけられています。「拝啓」「敬具」は仕事先以外にも広く使われますが、「謹啓」「敬白」は、ビジネスシーンにおける手紙で用いられることがほとんどです。
「拝啓」「敬具」ほどには丁寧さを必要としない手紙の場合は、前文を省くという意味の「前略」で書き起こし、文末を「草々」で結びます。女性の場合は、「前略ごめんください」で始め、「かしこ」で結ぶこともあります。女性向けの「かしこ」は、「拝啓」の結語としても用いることが可能です。
頭語、結語は他にも多々ありますが、上記以外のものは、現代ではほぼ使われることがありません。
手紙以外での書き起こしと結び
昨今は、仕事相手、年上、目上への連絡においても、手紙ではなくEメールなどを通す場合が多くなっています。その場合、手紙に用いる頭語・結語は不要です。
頭語の代わりに「いつもお世話になっております」結語の変わりに「今後ともよろしくお願い申し上げます」などを、関係性に応じて記すことになります。
基本的には、手書きの手紙が最も礼を尽くした形態ですので、可能であれば、メールでの連絡となることの非礼を詫びる言葉を添えるとよいでしょう。