「銭ゲバ」とは?
「銭ゲバ」の意味
「銭ゲバ(ぜにげば)」とは、「金のためならなんでもする人」、「金銭への執着が強い人」を揶揄する言葉です。
「銭」+「ゲバ」の造語で、「銭」は文字通り金銭を指し、「ゲバ」はドイツ語で暴力行為を表す「ゲバルト(Gewalt)」を略した言葉です。
「銭ゲバ」の使い方
- あいつは銭ゲバだと言われているが、金に几帳面なだけで、本当はいい奴だ。
- 金は大切だと思うが、銭ゲバにはなりたくない。
「銭ゲバ」の由来
「銭ゲバ」という言葉は、1970年にジョージ秋山・作『銭ゲバ』という漫画が発表されて以来、使われるようになりました。
1970年代は学生運動が盛んだった時代で、過激な行為を「ゲバルト」と呼んでいました。漫画の内容については追ってご紹介しますが、金銭を得るために主人公が過激な行動を繰り返す物語なので、「ゲバルト」という言葉が使われたのでしょう。
「ゲバルト」とは
ドイツ語の「ゲバルト(Gewalt)」は、英語の「Viorence force」に当たる言葉で、「他者の身体や財産、権利などを物理的に破壊する力」を表しています。
「ゲバルト」を使った当時の言葉には、次のようなものがありました。これだけでも、物理的に過激な時代背景がうかがえます。
- 内ゲバ(内部ゲバルト):同じ主張を持つ党派同士の内部抗争。
- 外ゲバ(外部ゲバルト):学生運動家などが国家権力(機動隊など)に対して行う外部抗争。
- ゲバ棒(ゲバルト棒):プラカード(の柄)が武器として使用されたのが始まり。通常は角材。
- ゲバヘル(ゲバルトヘルメット):デモ隊が身を守るためにかぶる安全ヘルメット。
漫画『銭ゲバ』の時代とは?
漫画『銭ゲバ』が発表された当時は、ドイツ語由来のカタカナ語が多用されており、学生運動に関する用語にもドイツ語が多く使われていました。
これは、明治時代からの伝統で、旧帝大(東京大学や京都大学など)の学生たちが自分たちの知性のステータスとしてドイツ語を学んでいたことに倣ったことによるようです。
当時の学生たちは、教養の証として日常会話にドイツ語の単語を流用していました。今でも使われるドイツ語由来のカタカナ語には次のような言葉があります。
- アルバイト(Arbeit):仕事
- アンチテーゼ(Antithese):反対の理論、主張。アンチ。
- カテゴリ(Kategorie);カテゴリ。範疇。一般的な概念または分類語。
- ゼミナール(Seminar):ゼミ。セミナー。
「銭ゲバ」と「守銭奴」の違い
「守銭奴(しゅせんど)」とは、「金をため込むことに異常に執着する人」、「貪欲でケチな人」を指す言葉です。金銭への執着という点は「銭ゲバ」と共通していますが、次のような違いがあると考えられます。
- 「銭ゲバ」→収入にこだわる。金を得るためなら手段を選ばない(投資、きたない手段)。
- 「守銭奴」→支出を抑えることにこだわる。金を使わないためなら不便にも耐え、必要な支出も控える。
『銭ゲバ』について
漫画『銭ゲバ』のあらすじ
『銭ゲバ』の主人公・蒲郡風太郎(がまごおりふうたろう)は、酒浸りで放蕩三昧の父、病弱な母のもとに生まれ、貧しい暮らしをしていました。
学校では貧乏といじめられ、家に帰れば父の暴力。そんな中でも、正直に一生懸命頑張れば幸せになれると教える母でしたが、とうとう父が家を出て、母は過労で倒れてしまいます。
医者にかかろうにも薬代も払えず、母はあっけなくこの世を去り、これを機に風太郎は「金さえあれば」と金に対して強い執着を抱くようになりました。そして、他人の金に手をつけようとしたところを青年に咎められますが、その青年を殺めてまで金を強奪し上京します。
「銭のためならなんでもするズラ」という強い思いから、裏切りと殺人を繰り返して会社を手に入れて社長の座につきます。その後、遂には政界にまで進出した風太郎は、衝撃の結末を迎えました。
ドラマ『銭ゲバ』について
2009年には、漫画『銭ゲバ』を原作としたテレビドラマ『銭ゲバ』が日本テレビ系列で放送。主役の風太郎役は松山ケンイチが務めました。
昭和色が強い原作を、リーマンショック後の派遣切りなどが問題となった放送当時の社会背景でアレンジしてあるものの、風太郎の「金のためならなんでもする」という執念が巻き起こす数々の悲劇が再現されていました。