「恍惚」の意味
「恍惚」はこうこつと読みます。意味には大きく以下の2種類があります。
- 心惹かれ、うっとりとしている様子。夢中になっていて周りの様子が見えていない状態。
- 特に加齢による認知症などで惚けてしまい、ぼんやりとしているさま。
「恍惚」の例文
- 誕生日プレゼントがよほど気に入ったのだろうか。彼女は恍惚とした表情で指輪と僕を見つめる。
- 大丈夫と繰り返すが、その顔は恍惚としていて僕らは寒気がした。
- 恍惚とした父の最期は安らかなものであった。
「恍惚」の類義語
「恍惚」が日常会話で用いられることはあまり多くありません。以下にあげるような類義語で言い換えることがほとんどです。
うっとり
「うっとり」は美しいものに心惹かれる様子を表します。上記「恍惚」の1の意味と同じですが、相違点が2つあります。
1つは「うっとり」には「惚けている」という意味がないことです。もう一つは、「恍惚」が文章中で多く使われる一方、「うっとり」は文章でも会話でも使用される言葉であるということです。
ぼんやり
「ぼんやり」は「曖昧ではっきりしないこと」あるいは「意識や気持ちが集中せず、不注意な様子」を表します。
こちらは「恍惚」2の意味と同じですが、「恍惚」が認知症の高齢者に対して使われることが多い一方、「ぼんやり」は高齢者以外にも使えます。
陶酔
「陶酔」も「何かにうっとりして夢中になっている状態」を表すという意味では「恍惚」と同じです。大きな違いはありませんが、「陶酔」は陶酔する対象に焦点が当てられるのに対し、「恍惚」は恍惚としている人やその状態に注目している傾向があります。
エクスタシー
「恍惚」の英語表現でもある「エクスタシー」。英語では「ecstasy」と表記されます。宗教的、芸術的な意味で使われることが多く、「快楽の最高潮に達してうっとりしている」ことを表します。また、幻想や幽体離脱などを伴う快楽という意味でも使われます。
トランス
「トランス」は「変性意識状態」とも呼ばれ、「普通ではない精神状態」を表す言葉です。古代ではシャーマンの修行や薬物によって、現代では瞑想や精神療法で見られる意識のことです。この「変性意識状態」を「恍惚状態」と呼ぶこともあります。
惚け(ぼけ)
「惚け」も「恍惚」同様「認知症などでぼんやりした人の状態」を指します。認知症ではなくとも、ぼんやりしている場合には「惚け」や「恍惚」を使うことがあります。漢字表記よりもひらがなでの使用が多く見られます。
恍惚の人
新しい「恍惚」の語意に由来する『恍惚の人』とはどのような小説なのでしょうか。著者は有吉佐和子さん。『複合汚染』や『紀ノ川』などが有名です。
『恍惚の人』は新潮社より1972年に出版されました。文庫では1982年から販売されています。また、映画やドラマにもなっています。
あらすじ
東京で夫や息子と暮らす立花昭子。彼女をいじめてきた舅(しゅうと)の立花茂造には、妻の死と前後して奇行が目立ち始めます。
妻の死を理解できず、自分の息子や娘のことも認識できない舅。その症状は悪化していきます。夫やその家族は直接世話をせず、施設や病院からも助けを得られず、孤独に介護する昭子の日々。そして認知症が進んだ茂造は幼児化し、ぼんやりとした、無邪気な笑いを浮かべるのでした。
社会的影響
小説『恍惚の人』は200万部近い売り上げを達し、ベストセラーになりました。また、認知症が進行し、ぼんやりとした人のことを指す「恍惚の人」という表現が流行。認知症による高齢者の問題についても多くの人の耳目を集め、その結果、社会問題として議論されるようになりました。