「慇懃」の読み方
「慇懃」は、「いんぎん」と読みます。「慇」は「イン」、「懃」は「キン」や「ゴン」という音読みですが、「慇」も「懃」も訓読みは「ねんごろ」で、心がこもっている、丁寧な様子を表す言葉です。古くから使われてきた言葉で、平安時代の終わりごろには現在と同じく、「いんぎん」と読まれていたそうです。
また、どちらも難しい漢字ですが、部首は「心」で、上の字はそれぞれ「殷」と「勤」です。書くときは、字の構造をよく見ていくと書きやすいかもしれませんね。
「慇懃」の意味
「慇懃」という言葉には、
- 丁寧なさま、礼儀正しい様子
- よしみ、親しい交わり
という2つの意味があります。「慇」には「心をこめる」、「懃」には「丁寧」や「親密」という意味があり、「慇懃」は似た意味の字が2つ重なっている言葉です。意外に思われるかもしれませんが、心がこもった丁寧な様子という、とても良い意味で使われる言葉です。
「慇懃」の使い方や例文
「慇懃」の使い方
所作や態度を表す言葉と共に使われることが多く、「慇懃な対応」「慇懃な挨拶」といった使い方をします。どちらも礼儀正しい、丁寧といった様子を表していますね。
このように、「慇懃」は相手の行動を肯定的にとらえる、良い意味で使われる言葉です。やや文語的な表現なので、日常生活ではあまり馴染みがないかもしれませんが、小説などでは目にする機会の多い表現です。
「慇懃」を使った例文
「慇懃」を使った例文をいくつかご紹介します。
- あの人はいつも慇懃な挨拶をしてくれる。
- 彼は慇懃な態度で接客するため、評判が良い。
- 慇懃丁重なスタッフの対応には好感が持てる。
3つめの「慇懃丁重」は、「慇懃」と似た意味の「丁重」を重ねて、より丁寧さを強調したいときに用いる表現です。バリエーションの一つとして覚えておきたいですね。
「慇懃無礼」の意味と「慇懃」の誤用
「慇懃無礼」の意味
さて、「慇懃」の意味と例文をご紹介してきましたが、良い意味の言葉だと知って、意外に思われた方は多いかと思います。では、本来の良い意味があまり知られなくなったのはなぜでしょうか?
現在は「慇懃」単体で使われることが少なく、「慇懃無礼」という四字熟語のなかで使われることがほとんどです。この「慇懃無礼」という言葉は、
- 表面上は丁寧な物腰だが、内心では相手を見下している様子や態度
- 言動が丁寧すぎて、かえって嫌味や無礼であるさま
という意味です。「慇懃」と、反対の意味を持つ「無礼」とを組み合わせた熟語ですが、イメージの良くない言葉ですね。「彼は慇懃だ」という場合と、「彼は慇懃無礼だ」という場合では意味が異なりますので、注意が必要です。
「慇懃」の誤用
「慇懃無礼」はビジネスシーンなどでよく登場する言葉ということもあり、悪い意味だというのはご存知の方も多いと思います。そのためか、「慇懃」単独でも悪い意味の言葉だと誤解されるようになったようです。また、慇懃無礼の略が「慇懃」だという誤解も少なからず広まっているようで、
慇懃な態度=慇懃無礼な態度
と、本来は良い意味の「慇懃」が、正反対の意味だと誤解されているケースもあります。慇懃無礼という言葉のイメージから、このような誤解が生まれたようです。
「慇懃」のまとめ
いかがでしたでしょうか。「慇懃無礼」という言葉のイメージとは違う、「慇懃」本来の意味をご紹介してきましたが、初めて知ったという方も多いのではないでしょうか。聞きなれない言葉ではありますが、人から本来の意味で言われると、とても嬉しくなる言葉です。「慇懃無礼」な人ではなく、「慇懃」な人になれるよう、言動には気を付けたいものですね。