「愚鈍」の意味
「愚鈍」は「頭の回転が遅く、何をやらせても行動が遅いこと」という意味です。
「愚鈍」の由来
「愚」は「禺」と「心」からなり、「禺」は、猿に似たなまけものの類の象形文字で、不活発でにぶいという意味を表わします。また、心の働きがにぶい、おろかの意味も表わします。
「鈍」は「金」と「屯」からなり、切れ味の悪い金属という意味から、同様に、にぶいという意味を表わします。
「愚鈍」の使い方
「愚鈍」の例文 ※差別用語になる場合も
- 愚鈍が物知り顔で街を闊歩している。
- 愚鈍な人間ども
- 愚鈍そうな目をした犬
主に、小説など文章上に出てくる言葉であり、会話に用いられることは少ないでしょう。なお、この「愚鈍」という言葉は用いられ方によっては、差別用語となるため、放送業界では自主的に使用を控えています。
良い印象を与える場合
一方で前後の文章によっては、読み手に良い印象を与えることもできます。
- 世間から目立たぬよう愚鈍を装って生活をしている。
- 愚鈍なまでに正直な男
謙称として
また、謙称(相手に対してへりくだった言い方)として使用される場合もあります。
- 愚鈍な妻
- 私の愚鈍な考え方
「愚鈍」類語
遅鈍
行動が遅くて鈍いこと。気転がきかないこと。
愚昧
愚かで道理の分からないこと
「愚鈍」と「遅鈍」・「愚昧」の使い分け
「愚鈍」と「遅鈍」は似た者同士の言葉として、類語辞典などにも記載がありますが、根本的な使い方の違いは、
- 愚鈍:頭の回転について
- 遅鈍:行動の遅さについて
を表しています。そのため「愚鈍」よりも「遅鈍」の方が柔らかく感じるはずです。
例)
生来の遅鈍な性質が彼の良いところでもあり、悪いところでもある。
また、「愚昧」は「愚かで道理に暗いこと」という意味です。つまり、筋道を立てて合理的な考え方を説明しても、非合理的な自分の考え方に固執してしまって、周囲から愚かであると思われてしまうことです。
「愚鈍」は個人の能力に対する言葉なのに対し、「愚昧」は個人の性質に対する表現となります。
例)
愚昧な私ですが、精一杯やらせていただきます。
「愚鈍」反対語
- 利発 頭がよく賢いこと。
- 鋭敏 鋭く敏いこと。優秀なこと。
「愚鈍」関連語
「愚鈍尊」
集英社から刊行されている週刊少年ジャンプに連載中の「銀魂」第266話中に出てくる作家の名前ですが、実は、北斗の拳作者の「武論尊」をもじった名前です。そのページのみ北斗の拳と同じ作風になっています。
「愚鈍の桜」
the GazettEが結成15周年を記念して行ったライブ「十五周年記念公演 大日本異端芸者『暴動区 愚鈍の桜』」を開催しました。「愚鈍の桜」についてですが、当該バンドが「愚か」というイメージで売っていたことと、桜の季節にライブを行ったことが大きな理由になっています。
「愚鈍」が使用されている主な小説
- 芥川龍之介 十円札、じゅりあの・吉助、密柑
- 織田作之助 髪
- 太宰治 鴎、乞食学生、作家の像、皮膚と心、物思う葦
- 夏目漱石 明治座の所感を虚子君に問れて
- 福沢諭吉 女大学評論 成学即身実業の節、学生諸氏に告ぐ
- 宮沢賢治 風の又三郎
明治、大正、昭和初期にかけて活躍した小説家、蘭学者、童話作家とその作品です。「愚鈍」という言葉は、今ではあまり使用されていないので初めて見る方もいることでしょう。
あまり歓迎された言葉ではないのですが、登場する人物などの生々しい人物像や生活感を描写するのに大きな役割を持っている言葉です。
「愚鈍」まとめ
今では実生活や小説の中にもあまり登場しない「愚鈍」という言葉ですが、文章全体に占める「愚鈍」という言葉の色や響き、重さなどが、その人物や風景に隠れた部分を読者に理解してもらうための大切なアクセントになっているのではないでしょうか。
昔の小説が名作としていまだに読者に愛されているのも、こういった言葉をとても丁寧に使用しているからかもしれませんね。
様々な難しい言葉が出てくる昔の名作を辞書を片手に読んでみてはいかがでしょうか。「愚鈍」のほかにもいろいろな言葉が見つかり日本語の奥深さと鮮やかさを再認識し、小説自体の感動とは違った別の感情が生まれるはずです。