「いざ鎌倉」の意味
鎌倉時代の御家人たちは、鎌倉幕府に重大事件がおこると「大変だ!鎌倉へ駆けつけねば!」と一目散に鎌倉に駆け付けました。ここから一大事がおこった場合や、それを受けて動くべき時だということを表現したり、一大事がおこった時にすぐに行動に移す、積極的に行動に移すということを「いざ鎌倉」と言うようになりました。
簡単に言うと、何か事件がおこった時に「さあ、一大事だ。やるぞ!」といった感じでしょうか。自分のやる気を表現したり、重大な局面を前に気を引き締めているようなニュアンスもあります。
「いざ鎌倉」の由来
「いざ鎌倉」という言葉は、謡曲「鉢の木」の中で貧乏武士の佐野源左衛門常世(さのげんざえもんつねよ)が、鎌倉幕府に一大事があった際には一番乗りで駆けつける気持ちをもっているということを「いざ鎌倉の時には...」という台詞で表現したことが由来となっています。
「鉢の木」のあらすじ
「これらの盆栽は今の自分には無用のもの。しかし、領地は一族に騙されて取られてしまったが、古鎧と薙刀と馬だけは残していて、いざ鎌倉の時には自分が一番乗りで駆けつけて命を懸けて戦いたい。」
春になり、幕府から武士たちに緊急招集がかかります。源左衛門も古鎧に身を固め馬に乗り、一目散に鎌倉に駆け付けると、北条時頼の御前に呼び出されます。なんと、あの雪の夜の僧侶が北条時頼だったのです。時頼は源左衛門にあの晩の礼を言い、奪われた領地を返したうえで、あの晩の鉢の木(梅・松・桜)にちなんだ新しい領地を与えました。
この「鉢の木」からは、当時の鎌倉幕府と御家人たちの「御恩」と「奉公」で結ばれた深い絆が読み取れます。
「いざ鎌倉」の使い方
「いざ鎌倉」という言葉を、現在では正しい意味で使うことはほとんどなくなりました。ここでは、「いざ鎌倉」のよくありがちな誤用例と、正しい例文、昔の作家達がどの様に使っていたのか見てみましょう。
「いざ鎌倉」の誤用例
・今から鎌倉に旅行に出発するぞ。いざ鎌倉!
⇒ただ鎌倉へ行く、鎌倉に観光に行くという場合に「いざ鎌倉」を使うのは間違いです。
・散歩をしていたら急に雷が鳴り始めたので、いざ鎌倉と建物に避難した。
⇒大変なことがおこった時でも、逃げ出す場合には「いざ鎌倉」は使いません。
「いざ鎌倉」の例文
- いざ鎌倉という場合に備えて、万全のサポート体制を組んでいます。
- いざ鎌倉という時には、家族で協力して助け合うべきだ。
「いざ鎌倉」の引用
『熊手と提灯』:正岡子規
『世界の一環としての日本』:戸坂潤
※青空文庫出典
「いざ鎌倉」のまとめ
「いざ鎌倉」という言葉が、鎌倉と関係なく一大事がおこった場合という意味で使われていることは、多くの人にとって意外だったかもしれませんね。鎌倉幕府の「御恩」と「奉公」という封建制度を背景に誕生した言葉なので、当時と時代背景がずいぶん異なる現代社会ではなかなか馴染みがない言葉です。
また、「鎌倉」という有名な観光地の固有名称が使われている点も、本来の意味がわかりにくくなってしまっている理由かもしれません。私たちが実際に「いざ鎌倉」という言葉を使う機会は少ないと思いますが、知識として「いざ鎌倉」の本当の意味を知っておいても損はないのではないでしょうか。